(メフィ燐)何も知らない奥村燐と巻き込まれる人々「なぁー、しおふき?って何かお前ら知ってる?」
快晴の青空の下、生徒の笑い声が響くランチタイムでこの場だけが氷河期のごとく温度が下がり空気が止まる。勝呂は気管に入り込んだお茶に咳き込み、志摩はブバッと緑茶を吐いて、子猫丸は食べようと箸で掴んだ卵焼きを滑り落とした。
「お、奥村く、ん……え、何、今の幻聴かなんかかな?」
「志摩さん汚い。それにまだそうと決まったわけやあらしまへんよ。あの奥村くんですよ?」
ねぇ坊?と隣で呼吸を整える勝呂に水を向ければ、いきなり何やねん!と声を荒げて突然投げられた質問の意図を燐に問う。
「自分突然何言い出すんや、びっくりするやろ! はぁ……どうせあれやろ、クジラかなんかの映画でも奥村先生と見たとか……」
どうせ奥村のことだからそのへんやろ、とあたりを付けて勝呂は手にしたおにぎりを口に運ぶ。冷静な勝呂の様子に、思春期男子高校生として思わずいかがわしい方面かと混乱した二人も顔を見合わせ以心伝心頷いた。
(冷静に考えればそうやなぁ、あの奥村くんやもんなぁ……)
(びっくりして損したわ、あーまだ心臓がドキドキしとる)
勝呂からの指摘に、燐はンーと煮え切らない返事をしながら後頭部を掻く。
「いや、雪男じゃなくて、メフィストから昨日言われてさ。今度はしおふきの練習をしましょうねって……練習っていうからにはなんか技?とかみてーなんだよなぁ……訊いても今度まで内緒ですって言、ええー! お前らどうしたー!?」
今度は飯粒が気管に入り勝呂は激しく咳き込み、志摩は再びブバッと茶を吐き出して、子猫丸は冷静さを取り戻すため経を読み始める。
みたいな、何にも知らない燐ちゃんからお付き合いメフィ燐の話も、聞きたくない二人の肉体的進捗状況も、知ってしまう巻き込まれ系の人々。