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    ΦωΦ゛

    @catea_0c0

    ほぼ二次創作用。
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    レイ+チュリにCO-OP型脱出ゲームやらせたら爆速クリアするんだろうなと思いつつ、シオ先生が考え込み始めて詰むかもっていうネタ両方詰めた。

    #二次創作BL
    secondaryCreationBl
    #腐向けHSR
    #レイチュリ

    🗿🦚未満。CO-OP型脱出 硬い地面に足がついた。
     強制的な空間転移を終えたとてつもない不快感に頭を押さえてゆっくりと目を開く。今立っている場所は研究所のようで、石造りの部屋には見慣れない装置や本が散らばっている。人が居るような気配はない。だが長年放置されたというほど埃や砂を被ってもいない。
     さて、とアベンチュリンは頭が正常に働いているのか状況を整理する。
     カンパニーの人間が数名行方不明になった原因である奇物の回収と行方不明者の捜索部隊に何故だか戦略投資部のアベンチュリンが同行することになった。詳しい事情は聞かされていない。スケジュールが空いたところに不意に上から命じられて断る余地もなかった。
     ビーコンが途切れた場所で奇物を発見した途端、体が意識ごとどこかへ持って行かれてしまったのだ。その場所がここだということは理解できた。
     はめ込み窓から見える外の景色は砂嵐で何も窺えない。お気に入りの腕時計も狂ってしまったようだ。秒針が前に進めずにカコカコと足踏みをする。
     行方不明者もきっとこうしてどこかへ飛ばされてしまったのだろう。果たして彼らはここに居るのだろうか。
     ひとまず慎重に周囲を探索してみるしかない。
     呼吸を整えると、不意にザザッとザラついた音がして肩が跳ねた。音の発生源は不自然に机に置かれたトランシーバー。そのスピーカーからノイズ混じりの声がする。
    「僕はべリタス・レイシオ。これがどこかの誰かに繋がっているのなら応答してくれ」
     よく知った名前と冷静沈着な声に、強張らせた体から力が抜けた。彼もこの任務に同行していたことを思い出す。一緒に巻き込まれたか。
     ふっと息を抜いてトランシーバーを手に取った。
    「やあ、教授。僕が誰だか分かるかい?」
     いつもの調子でおどけてみせると向こう側からため息が聞こえてくる。
    「……君か」
    「一縷の望みをかけて助けを求めて繋がった先が僕なんかで残念だったね」
    「君のせいで巻き込まれたようなものだが誰にも繋がらないよりはマシだったと思おう」
    「待ってくれ。僕が巻き込んだって? 文句なら回収チームに言ってくれよ」
     聞き捨てならない。こっちだって巻き込まれた被害者なのだ。八つ当たりも甚だしい。
     けれどレイシオはふんと息をつく。
    「回収予定の奇物は恐ろしく出現率が低いものだ。それを聞けば君が何故同行させられたのか理解できるだろう」
    「ああ」
     得心が行った。
     まるで関係のないことだとは思っていたが、まさか自身の運の良さが他の部署にまで伝わっているだけでなく利用までされるなんて。
    「僕が奇物との遭遇率を引き上げる為のお守りだとして、君は? どうして呼ばれたんだ?」
    「僕が駆り出される理由など一つしかない。どうやらこの奇物は謎を解いて自力で脱出する必要があるようだ」
    「謎?」
    「ああ。トランシーバーの横に不自然に置かれていたメモにはそう書いてある」
     メモ、と言われて机に目を向けるがそんなものはない。レイシオのほうにはルール説明があったのか。
    「教授がゲームクリア要員なら、さっさとクリアして外から助け出せるか試してみてくれないか?」
    「そうしたいところだが、いくら部屋の中を探索してみても謎があるばかりで答えになりそうなものがどこにもない。このトランシーバーもギミックの一つなんだろうと呼びかけてみたら君に繋がったというわけだ」
    「なるほどね。僕も似たような状況だ。閉鎖的な空間に本や装置があって、時計も動かないくらいだけどトランシーバーだけが繋がる」
    「他に何か不自然なものはないか」
    「何かって……そもそも答えが用意されているのか? 奇物なんて大した意味もなく人を振り回す代物が多いだろう」
     言いながら机にもたれかかって周囲を見回す。レイシオのお陰で調子が戻ってきた。
     これもゲームということなら解くべき謎は分かりやすく提示してくれているのだろう。壁に並べられた本を一冊ずつ確認するなんて必要はなく不自然なものを拾えばいい。扉が一つあるが、あれはきっと最後だ。
     そもそもルール説明もないようなこの部屋では何から手をつけるべきか。
     ふと指先に何かが引っかかって目を向けた。
    「レイシオ、トランシーバーが置いてあった机に記号? 絵みたいなものが掘られてる」
    「どんな絵だ?」
     待ってくれと伝えて机に掘られた絵をじっくりと眺める。ナイフで机に刻まれた傷を角度を変えて眺めて自分の知識と照らし合わせた。
    「雪の結晶と時計は分かるんだけど……」
    「雪の結晶……絵は全部で四つあるか?」
    「あるね。あと二つがなんだろう。……列車と船、かな?」
     すぐに返事はなく、やや間を空けてザザッと音がした。少しばかり気分が上向いたような声音が届く。
    「こちらにも同じ絵を選ぶパネルがある。絵の順番は?」
    「左からでいいかい? 列車、雪の結晶、船、時計の順だ」
     答えるとまた返事はなかった。けれどすぐに弾んだ声が返ってきた。
    「正解だ。鍵が外れて出てきたこれが恐らく君のほうにある謎の答えなんだろう」
    「へぇ、君は嫌でも僕と協力しないと出られないってわけだ。面白くなってきた」
     謎と答えがそれぞれの部屋に対応しているのならコミュニケーションは必須というわけだ。映像は共有できない。どんな頭脳を持ってしても少しの伝達ミスで簡単な問題さえ解けなくなるだろう。
    「僕に命運を預けるのはどんな気分だい?」
    「他のアホどもに比べたら君と組むのが一番成功率が高い。僕の運も悪くないようだ」
    「ははっ、光栄だね。それじゃあ一緒に謎を解いて、さっさとこんな所とおさらばしよう」
     軽くなった足取りで謎を見つけに部屋の探索を始めた。


     最後に開くと踏んだ扉は隣の部屋に続いているだけのもので、加えてその部屋は階段が上にも下にも伸びていた。二階や地下、最初の部屋へと駆けずり回りながら、頼もしい相棒のお陰で行き詰まることなく次々に現れる謎を解き明かしていく。
     あといくつの謎を解けば出られるのだろう。外は相変わらず砂嵐で昼か夜かも判断がつかない。
    「結構解いたけどどのくらい経ったのかな。もう今見つけられる謎は四桁の数字を打ち込める装置なんだけどそっちに答えは見つかりそう?」
    「今は三システム時間ほど経過したところだ」
    「やけにハッキリ答えるけど君のほうは時計が壊れたりしてないのかい? それとも体内時計が正確なのか?」
     間髪入れずに経過時間を答えられて驚いた。思わず自分の腕時計を確認したけれど、秒針はカコカコとその場で揺れたまま。
     この男なら目が覚めた時から数えていたと言われても不思議じゃないかもしれないけれど。
     質問の答えは得られず、むしろ質問を寄越される。
    「君のほうに時計らしき物はないんだな?」
     質問というよりは確認のようだ。何度も確認したが、一応ぐるりと見回す。
    「ないね。今あるのは四桁の数字を求める装置のみだ。探しに回ろうか?」
    「いや、君がそう答えるのなら再三探して、それなりに自信があるんだろう」
    「嬉しいね、この数時間で随分と信頼が芽生えたみたいだ。答えが見つかるともっと嬉しいんだけど」
     気難しい天才の相棒役が務まっているなら何よりだ。
     だがこれまですぐに返答があったトランシーバーが沈黙する。しばらく待ってからもう一度「教授?」と呼びかけても返事がない。
     謎を探していても、解いている最中でも今までなら返事があったのに。まさか一人で謎を解いて出られる方法を見つけたとか。いや、彼はそこまで薄情な人間ではない。そんな方法があったとして、待っていろと一声かけるだろう。
     なら何かあったか。
     不確定要素しかない環境で何か、だなんてゾッとする想像よりももっと簡単に思い当たることがあって、トランシーバーに向かって声を叩きつけた。
    「まさかとは思うけど君、ここにある本を読み始めたんじゃないだろうな!?」
     知識の探求者が途端に黙りこくるシーンは今まで何度か経験した。例えモンスターが目の前にいる状況だろうと突如として自分の考えに耽るのだ。そうせずには居られなくなる。
     そんな人間が謎と本が山積みにされた空間で今までよく誘惑に耐えたと褒めてやるべきなのか。そんなわけがない。
    「いいか!? 君が謎を解いてくれないと僕までここに閉じ込められるんだぞ! 分かってるのか!? 君は知識に溺れるのが大好きかもしれないが僕はこんな所、一刻も早く出たいんだ! 聞いているのか!?」
    「……やかましい」
     顔を顰めて耳を塞いでいるであろう姿が想像できるほど、煩わしげな声が返って来て胸を撫で下ろした。
    「お返事どうも。何が起こるか分からない環境で無防備にならないでくれ。今は存護の加護を与えてやることもできないし、君が生きていないと僕も出られないんだ」
     こんな環境でなくても無防備になれる性質が理解できない。恐怖はないのか。
     こちらの苛立ちなど気に留めていなさそうなゆったりとした声が聞こえてくる。
    「謎を解く為に歩き回っても殺傷性のあるギミックには遭遇しないようだし、行方不明になった者たちの遺体が見つかることもない。君、腹は減ったか?」
    「ああ? ……いや、そう言われると空腹は感じないな。たった今大声を出したせいで疲労がどっと押し寄せているけどね」
     たった数時間で不意な質問も、何か謎解きに必要なのかもしれないと答える癖がついた。
     嫌味を言ったというのに「それは何より」とレイシオは満足気だ。
    「餓死の心配はないということだ。もしかすると奇物に取り込まれている間は現実時間が止まっているのかもしれないが。君が他に謎を見つけられないのならおそらくこれが最後のギミックだろう」
    「つまり? クリアは目前というわけだ」
    「ああ。だがクリアしてしまえばここにある知識は閉ざされてしまうかもしれない。死ぬ心配もない。となれば時間に余裕がある今のうちに内容を確認しておきたい」
     予想どおり本を読み耽っていたのか。当然のことのようにけろりとしている自分本位な彼にもう一度吼えた。
    「そんなの僕が許すと思うのか!? 出口の鍵を開けてから一人で残ってくれ!」
    「鍵を開ければ追い出されるかもしれない。それに僕が君の都合を気にかけると思うのか。疲れたのなら気にせず休むといい。時間はある」
    「まったく……何年分の寝溜めができるかな」
     何を言っても響きそうにない。諦めて椅子にドサッと腰掛ける。
     その様子を見ているかのようにトランシーバーの向こうでふっと笑う声がした。
    「ここに留まればギャンブル依存症を治療できるかもしれないぞ」
    「大きなお世話だよ! ああ……本当に疲れてきた。少し眠るから動く気になったら声をかけてくれ」
     何だか目眩がする。よく考えれば奇物に取り込まれてからは三システム時間だったとしても、その前に奇物を捜索していたのだから体が疲れているのは当然のことだ。腹が減らないなら眠らなくて済むようにしてくれたら良かったのに。
     いや、それだとレイシオの傍若無人ぶりに付き合う間、無音のトランシーバーを見つめるだけの時間になる。無防備になりたくないというのに、今はひとりで、ここは安全だと言われてしまえば欠伸が出た。
     立てた片膝に額を乗せて身を丸めて目を閉じた。


     アベンチュリン、と呼ぶ声がする。
     気怠くてまだ目を開きたくない。けれど微睡む心地良さには浸らせてくれない不愉快なノイズが聞こえてくる。
    「起きているか、ギャンブラー」
     揺すり起こすような優しげな声音。起きていなくても構わないと言われているような声に目を開く。
    「いま起きた……僕はどのくらい眠っていた?」
    「六システム時間ほど」
    「はは、仮眠なんてレベルじゃないな」
     しっかり眠ってしまっていたらしい。横になれたわけでもないから固まっていた体はバキバキと音を鳴らすけれど。彼はずっと起きていたのだろうか。
     欠伸混じりに伸びをして周囲を見回しても何も変わりなかった。外は砂嵐。人がいる気配はない。
     唯一の外部とのコミュニケーション方法であるトランシーバーが質問した。
    「緑と黄色、どちらが好きだ?」
    「急になんだい? 謎解きに行き詰まって雑談タイムかい?」
    「そんなところだ。どちらに賭ける」
     彼が行き詰まるなんて珍しいこともあるものだ。
     賭け、だと言われてしまうとギャンブラーとしての頭が働いてしまう。
    「状況も分からないのにベットできないな。寝起きで頭も働いていないし……」
    「どうせ雑談だ。直感でいい」
     そもそもレイシオと雑談というのが奇物に取り込まれるよりも珍しい状況なのに。直感でさえ鈍る。
     机に頬杖をついてまだ重い頭を支えると、はらりと落ちた前髪が目にかかった。
     賭けは放り出した。初めにどちらが好きかと聞いていたのだから答えは好きなほうでいい。
    「……黄色のほうが好きだな」
    「黄色だな」
    「本当に何なんだ? プレゼントの参考?」
     確認するような言葉に軽口を返すがトランシーバーは無言になる。パターンを何通りか試しているんだろうか。
     とりあえず謎解きに専念してくれるならもう出られる。
     四桁のパスワードが必要な装置の傍へ行き悠長にトランシーバーが唸りを上げるのを待っていると、疲労を滲ませた安堵したような声が聞こえてきた。
    「成功だ」
     成功? 正解ではなく?
     瞬時に浮かんだ疑問は続く言葉に流されてしまう。
    「パスワードが出た。五九六三」
     言われたままの数字を入力すると、装置がぱかりと口を開き、鍵を吐き出した。
    「鍵だ! 多分、出口の鍵なんだろうけど君のほうはもう出られるのか? もう謎はないみたいだけど」
     言いながら扉に近づいて鍵を差し込む。このまま捻ればいいだけだが、開けば空間は収束、消滅してしまうだろうか。
    「ああ、問題ない」
     名残惜しそうな声だった。
     けれど銀河に彼がもたらす利益や、カンパニーに自分が生み出す利益を思えばいつまでもこんな場所に留まっているわけにはいかない。
     差し込んだ鍵をゆっくりと回し、謎だらけでも静かで穏やかだった空間から抜け出した。


     また猛烈な不快感と共に目を開く。
     砂漠のど真ん中だった。まさかまだ脱出できていないのかと不安が胸を掠めたけれど、腕時計は正常に動いていて現実なのだと理解する。
    「あの部屋に居たほうがマシだったかな……」
    「残念ながらあの部屋にはもう行けない」
     ぽつりと呟いた言葉に返事がきた。今度はノイズ混じりなんかでなく、傍に肉声が届いている。
     振り返れば色を無くした奇物を手にして落胆した様子のレイシオが佇んでいた。
    「それがあの部屋に迷い込ませた奇物?」
    「そうだ。もう役目を終えたようだ。行方不明者も吐き出されてそこいらで呆けている。ビーコンも機能しているからそのうち迎えが来るだろう」
     淡々と状況を説明しながら、視線は口惜しそうに奇物に注がれている。
    「長居させてやれなくて悪かったね」
    「どの道、あと一システム時間ほどしか居られなかった。僕のほうにはカウントダウンタイマーがあった。タイムリミットを超えれば失敗だったんだろう」
     新しい事実に目を見張った。悠長に眠っていていい状況じゃない。万が一にも起きなかったらどうするつもりだったんだ。
    「タイムリミットがあったなんて教えてくれても良かったろう」
    「君のほうにもあると思っていた。解き明かすべき謎の数が分からなかったから解決を急いだが、最後は運任せなんだと気付いて覚悟を決めるまで本を読むことにしたんだ」
    「覚悟?」
     妙な言葉選びだ。
     それから『成功』という言葉に引っかかっていたことも思い出す。タイムリミットがあって、緑と黄色の選択。
    「まるで爆弾解除でもしてたみたいな口ぶりだ」
    「今頃気付いたのなら、さっきは本当に寝起きだったようだな」
     呆れたように溜息をついてみせるレイシオに目を剥いて今度は詰め寄った。
    「待て待て待て! あの会話に君の命を握らされたって言うのか!? 直感で良いなんて君らしくもないギャンブルだ!」
    「安心しろ。行方不明者の数が揃っているのなら失敗だったとしても死にはしなかっただろう」
    「結果論じゃないか。覚悟を決めるまで六時間もかけておいて最後は僕に任せるだなんてどうかしちゃったとしか思えない」
     危うく天才の頭脳を失うところだった。銀河の損失だ。今頃になって手が震えてくる。
    「僕が走り回っている間、君はずっと爆弾と向き合っていたのか」
    「君も同じ状況だと思っていたのに隣の部屋があると知った時は驚いたな。窓からの景色が違うなら爆発したとしても君に被害はないだろうと踏んで黙っていた」
    「せっかく良い相棒だと思っていたのに黙ってるなんて酷いじゃないか」
     信頼を感じて気を良くしたというのに。
     いじけたような惨めな気分をレイシオが見下ろして問いかけた。
    「僕の命がかかっていると知れば君は答えを出せたか?」
     ぐっと歯噛みした。
     言い返せない。レイシオの命を、銀河にもたらす利益を自分の決定ひとつで失う可能性を考えれば覚悟を決めるのに六時間じゃきかない。損失が自分の命だけならまだしも、また他人を巻き込むなんてそんなの。
     手をポケットに入れ、ふうっと息を吐き出してレイシオを見上げた。
    「赤と黒ならもっと迷っただろうね」
    「ふん……僕は君の運を疑っていないが、君は僕を信じないだろう。だから黙っていたが、この件は僕と君とでなければ解決できなかっただろう」
    「それはそれは光栄なことだ」
     褒められてもちっとも嬉しくない。どうして無防備に命運を託せるんだ。どうして信じられる。恐怖を感じないのか。
     どの言葉も自分がちっぽけなだけだと虚しく響く気がして飲み込んだ。
     ビーコンが反応して、回収チームが近付いていることを知らせる。もう任務も終わりだ。そろそろ日常に戻る時間。
    「どうして黄色だったんだ」
     レイシオがちらりと視線を寄越して疑問を口にした。
     思わずハッと笑って「簡単なことだよ」と嘯く。
     自分の色だからだ。
     けれど、彼には本名も教えていない。信頼なんて言ってもその程度の関係だ。
     帽子を被ってコインを宙に弾いた。
    「僕のアイデンティティだからね。切っても切れない色なのさ」
    「……ギャンブラーめ」
     落ちてきたコインを掴まえる様をレイシオは憎らしげに睨んだ。
     いくらあの謎しかない部屋に閉じ込められようとも他人の命まで賭けてしまう。依存症は治りそうにない。
    「まあ、今回は僕の運も悪くないと思ったけどね」
     珍しく誰かの命を踏みつけずに済んだのだから今日はラッキーな一日だ。
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