「腹減った! ヤスん家寄ってコロッケ買ってこーぜ!」
「おどれが買うてきてワシに捧げるなら受け取ってやらん事もないが」
「テメー! パシリじゃねーかっ!」
ヤスは家の手伝いでジョウは相変わらず出席すら危うい体調。最近妙にクソ犬と二人行動を共にする事が多いのは偶然で、スタジオ借りんのも何だからってボロボロの音楽室でこの外道と小競り合いしながら練習。終わるとすぐバイク乗って帰る男の何と付き合いの悪い事。性格も悪いし。趣味も悪い。真正面からそれを告げると、
「頭が悪いおどれに言われるとは心外じゃ」
だもんな。遠回しにオレを馬鹿って言いやがったな。いや遠回ってねぇ! 普通に言った! 馬鹿って言う方が馬鹿!
「コロッケより唐揚げの方がええのう。ホレ、さっさと持ってこんか」
「聞けよ!」
今日は珍しく、嫌だ帰るとは言われなかった。やっぱ腹が減ってると性格根性捻じ曲がり犬でもちったあ素直になるんだろう。
*
「苦手なんだよ。オマエの、その、線香みたいな臭い」
「ほぉ? 喧しい羽虫だとは思っとったが、ワシの高貴な香りにまで口を出してくるとは、わんぱくが過ぎるのう」
「ジジ臭い」
一拍。
「……望み通り潰してやるか。虫ケラ」
「やんのかコラ!」
手の骨をバキバキやり始めたゴリラに中指を立てて応じる。
ミューモンを形作る動物的本能、つまり原始の習性なんだろう。煙っぽい臭いが昔から苦手だった。頭がクラクラして、足元が覚束なくなる。ただでさえ一撃の軽い自分だ。喧嘩の時に持ち出されたら不利になるので、なるべくそんな素振りは見せないように振舞っているが。