ホワイトデーゾロユリ 肌を撫でていく風も日を増すごとに柔らかくなっていく。日差しは白っぽく、空も冬の鈍色の雲は消え、霞む青が見られるようになっていた。街を歩く人々は自分と軽装になり、女たちはまだ肌寒いだろうに、随分と薄着で出歩いている。
祖国に比べれば随分と早い春の訪れだ。先程まで行われていた商談がうまくいったこともあり、ゾロトフは鼻歌の一つでも歌いたい気分になっている。もっともそんなことをしようものなら隣を歩く幼馴染に思い切り顔を顰められるだろう。年を考えろだとか、人の目を気にしろだとか、そういう細かいことを色々口に出されるに違いなかった。
「随分と楽しそうだな」
鼻歌を歌わずとも、相手には十分こちらの機嫌の良さが伝わってしまったようだ。「まあな」と返しただけで軽く溜息を吐かれる。
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