駆け足で 暦の上ではまだ春、とはいえ朝から眩しいくらいの日差しでじんわりと汗ばむほどだ。黒の制服は熱を吸収して余計に暑い。自分ではどうにもならないことではあるけど、就役が遅れたことを今だけはすこし悔やんだ。
それでもやっとここまで来たのだと、ゆるやかな海風を受けながら感慨に耽る。先輩方に恥じないように。そして弟妹たちの良い手本になれるように。
「この先会ったら容赦なく指導入れるからな。しっかりやれよー」
慌ただしい中で代表してきりさめさんから今朝贈られた激励の言葉を噛み締る。せっかく整えた髪の毛をわしゃわしゃと掻き回して行ったのはいい迷惑だけれど、と思い出すと同時に苦笑が漏れる。子供扱いの期間はここまでだ。
最後に岸壁と居並ぶ艦をぐるりと見渡し、決意を新たに帽子を被り直した。自衛艦旗を掲げるまでもう間も無く。