砦の日々 1◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「……お前、あいつに懸想しているのか?」
「は?」
確かに獄炎の親友を名乗る魔族はやたらと奥方様奥方様と気安いのだが、生憎こちらには全くそのつもりがない。思いもよらぬ疑惑にムッとしながら聞き返す。
「先日の件ならお話したとおりですし、大体貴方の前以外でお話することはありません。そもそも私自身は全くあの方に良い印象がありませんが」「本当か?」普段ならそうか、で済ませる話に今日は随分絡んでくる。
嫉妬かどうかもはっきりしない上にありもしない疑惑を投げられるのは癪に障る。
「そこまで私の言葉が疑わしいのであれば、他の者に聞いてみればよろしいのでは?」
ぐっ、と向こうも顎を引く。配下に聞くのはさすがに矜恃に関わるだろう。
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