「陛下に謁見の取り次ぎを願いたい」
アベラルドがそう言うと、テオは怪訝そうな顔で首を傾げた。
「直接時間を貰えばいいだろう?」
テオが右手を持ち上げてソファに座るよう促すも、アベラルドは執務室の入り口すぐそばに立ったまま、はっきりと首を振った。
「それでは意味がない」
「……陛下に何を言い出すつもりだ」
それは、問いかけではなく威圧であった。ひそめられた眉の下、静かな、けれど臓腑をぐっと掴むような低い声でテオに凄まれる。
アベラルドはその様子にほのかな安堵を覚え、思わずふっと表情を緩めた。
帝国皇帝の訪問を直近に控え、王室の緊張もいやが上にも高まっている今、王国騎士としての誇りを燃やすテオと、こうして対峙している。子どもの頃の自分が知ったら、どれだけ羨むだろう。
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