宇宙でたったひとりだけ【追加シーン/ライタール②】 ベンガルに丁寧に挨拶と感謝を述べ、コトリス山でのディルウィップの繁茂の様子やヘルガー灰化病の研究成果を話せる範囲で伝えると、彼は大変喜んでくれた。突然の訪問にも関わらず厚意で夕飯までご馳走になり、病院を辞し外に出ると、広く開けた海と夜空が一繋ぎになっていた。
港町の夜は意外にも静かであった。盛り場やディベルからの鉱物の加工場の方へ行けば、理術で光る灯り石に昼間の続きを託した営みがあるのだろうが、夕餉の彩りを商っていた男も既に引きあげた後で、海風で湿った静寂(しじま)だけが辺りに積もっている。
アベラルドとレティシアは、自然とまた指同士を絡ませあっていた。気負いもなく、てらいもなく、互いの存在を繋いでしまう。
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