道ぐだ【サンプル】遥か遠い世を生きたあなたへ 一.
朝のひんやりとした空気に誘われて瞼が開く。
ぱちぱちとまばたきをして、ぐぐっと伸びをする。鼻先が少し冷たい。
几帳の向こうに見える空はもう、日が昇り始めているようだ。
褥から出て、衾を畳む。几帳の陰から出ると、黒の長い巻髪と白の特徴的な長髪を持つ男が座禅を組んでいる。
声をかけていいものか迷うと、気配に気づいて男が立香へと振り返った。しゅるりと長い髪が揺れる。
「起きましたか。おはようございます」
「……おはようございます」
彼は――――この時代を生きる蘆屋道満だ。
時は、少し遡る。
『特異点が発見された』
そういって立香が呼び出されたのは、昨日のことだ。
「また平安京ですか」
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