Flash fight, Run, Kill, and ... 廃工場を揺るがす轟音に、びっくりして一番大きく身体を跳ねさせたのはその事態を唯一想定できていたドクターと呼ばれる男だった。この世の終わりのような破壊音と逃げまどう人間の悲鳴、罵声、断末魔。徐々に近づいてくる不吉どころでない爆音に流れる鼻血を拭うこともせずに――というのも両腕を後ろ手にきつく縛られていて身動きが取れなかっただけなのだが――床に転がったままあんな排気量のバイク誰が保有していたっけなと脳内リストを検索していた。
ようやく気がついたメンバーの一人が慌てた様子でドクターを掴み上げ人質にしようと声を張り上げた。しかしそのあまりにも伝統的かつ使い古された台詞が途中で終わってしまったのは、小刀が正確無比な投擲で彼女の喉を貫いたからである。そうして再び地面とお友達になることになったドクターが二度と人質としてナイフを突きつけられることはなく、周囲の音が苦悶の呻き声とバイクのエンジン音だけになった頃、ようやく剣呑な足音が背後で止まった。
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