瑠璃硝子の箱唄 最初は別人かと思った。
「十助……?」
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蝶は蟬ヶ沢の事務所に行く途中、道端にルリハコベの花が咲いているのを見かけた。庭園にひっそりと植えられた花の一つで、雑草に埋もれている中で綺麗な青い花を咲かせている。
その青を見て、ある人物を思い出す。彼はありとあらゆる方面で変人だった。正確も見目も、得意としていたことも、何より、彼の血液の色は蒼かった。
彼は今頃何をしているだろうかと思ったが、既に彼はこの世にいない。あの出会いから別れまでを繋げた根源は全てを絶たれた。
絶たれたはずだ。
ルリハコベの花の向こうにいる人物を見た瞬間、蝶は呼吸をするのを忘れた。
一緒にいた頃で知る範囲だが、彼は常に他者へ意識が向いており、アイスを作る時だけ完全にアイスのみに集中する様は異様で、それでいて人と接する時は裏表の限りなく少ない接し方で、アイスのようにひんやりとした寂しさ、渇望するような甘ったるさもあり、相手の好みを視る意識はべたべたとしか感触の、そんな変人だった。
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