オシツネサマ(仮) 曾祖母の遺した古い木箱。
瓦礫の中から見つけ出せたのは、それだけだった。
曾祖母は昔、霊能者だったという。
木箱を背負い町を巡っては、自身に霊を下ろしたり、お告げをしていた。祖母は主婦だったが、曾祖母の教えを守り、遠出の時は木箱も持っていった。
『オシツネサマは旅が好きだから、連れてかなきゃ。ウチを守ってくれる大事な神様。でも箱を開けちゃいかん。暴れてしまう』
俺がむかし勝手に開けようとした時は、とんでもない形相で怒った。
祖母から強く託されたものの、時々箱の中からカサカサ音がして気持ち悪いと、母は押し入れの奥に仕舞い込んでいた。
奇跡的に箱は壊れていなかった。箱に巻かれた「禁」の紙も残っていた。
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