然様ならば 街中で、髪型や風体が独特の三人組を見た。一目で分かる、彼らはかつて自分の兄だったものたちだ。
思わず立ち止まって、笑い合う三人がどこかへ歩いて行くのを見送る。ああ、今生では呪物になることもなく人の子として生まれおち、何に縛られることもなく生きているのだろう。それがとても眩しく感じられて、思わず目を細める。
「――よかった、幸せそうで」
呼び止めることも一瞬考えた。しかしせっかくの兄弟水入らずの時間に水を差すのも気が引けて、俺は再び駅を目指して歩くことにした。この地に訪れたのはたまたまで、用がなければ来ることもない場所だ。再び会うことも、恐らくはないだろう。それならば。
「そのまま、何も思い出さずに、幸せになってくれよな、兄貴」
呟いた言葉は誰に届くこともない。祈りだけが届くことを願って、俺は電車に乗った。
――兄貴。
「……?」
誰かに呼ばれた気がして振り返る。しかしそこには誰も居ない。
「兄者?」
「兄さん、どうしたの?」
弟たちが立ち止まった俺を見て不思議そうな表情で振り返る。
「ああ、いや、なんでもない。行こうか」
二人をそう促して、その後ろを歩き出す。しかし、耳にはいつまでも誰かの声が張り付いている。
(俺の事を兄貴と呼ぶ弟は、いない……はずだが、何故こうも気になるのだろうか)
目の前の高架の上を電車が通り過ぎていく。その窓から一瞬見えた薄い桃色が目にとまった。
「……悠仁?」
思わず口からこぼれ出た名前に困惑する。誰のことだ、誰のことだったか。何も思い出せないのに、なぜだか酷く懐かしくて、愛おしくて、目頭が熱くなる。目にたまった涙が瞬きと共に頬を伝って落ちていった。