Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    mitu26_43

    雑食オタクのワンクッション置きたかったり、ちょっとアレげだったりにょただったりするものを置く場所になっています。全体的にフリーダム。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 98

    mitu26_43

    ☆quiet follow

    仁笹の習作。彼らの宇宙と部屋と歩調の話。
    正直イベストを半端に読んでた時点で書き始めたので多少コレジャナイ感はあるけどひとまずのパッションの産物ということで…。

    #仁笹
    ##仁笹

    スペース・ペース・マイペース 笹塚創、ネオンフィッシュのメンバーで俺の相方。そんな笹塚は今日久しぶりに登校したかと思えば、目撃された生徒によると『中庭で空を見上げながらぶつぶつとなにかを口にしていた』らしい。
     真昼間だっていうのにまるで宇宙と交信しているのではとまで言われて、笑い話にされた笹塚のことを考えながらクラスメイトの会話に相槌をうつ。
     宇宙と交信、大いに結構だろう。あいつが面白いと思えば、だけど。もしかしたら宇宙人と会話して得たインスピレーションでテクノポップでも作り始めるかもしれない。俺に理解できない言語でもなんとなく笹塚は会話してしまうんじゃないかと思ったりする。寧ろ正直うちの天才の方がどこか別の星の出身なんじゃないだろうか。
     まあ、そんなことは置いといて。陰キャ代表みたいだと言われている割に嫌厭されずにラザルス学院の生徒のちょっとした話のタネになっているのはきっとその面白がられる『奇行』によるものだと思っているのだけれど、当の本人は相変わらずなにも気にしていないようだった。
     笹塚の自宅でありネオンフィッシュのアジトであるこの部屋でもくもくと作業をする家主に、学校の話題を振ってみてもパソコンに向かう姿はそのままで、反応は「ん」だの「あぁ」だの。きっと会話として認識していないんだろうなというお決まりのものばかりだった。話してもらわなくともきっといつものように所構わず、仕事で頼まれた楽曲のもっと良いアイデアが浮かんで、作曲作業に没頭してしまったんだろうけど。
     通信機よりスマホより、傍に居て会話をする方が難易度が高いなんて可笑しな話だ。笹塚は俺をエスパーだとか前に言っていたけれど、余計にファンタジーな思考に傾いてきたのか、いっそテレパシーでも使えれば笹塚とうまく意思疎通が出来るんだろうか。そんな柄にもないことが頭をよぎった。「言わなければ分からないこともある」と伝えられたからといって、そう簡単に状況が変わる訳でもないし、変わるとも思わなかった。ただ前と違うのは、ゆっくり変わっていくのならそれもいいと思える余裕ができたことだろう。


    ***


     不意にギィ、と笹塚の愛用のイスが音を立てた。仁科と呼ばれてなんとなくスマホで時間を見れば19時を回っている。次のイベントの出演に関する契約書に目を通していたら意外と時間が経っていたらしい。ソファに座りながら身体を伸ばして、笹塚の居る方を振り向いた。
    「…ああ、そろそろ飯にでもする?今日はなんの気分?」
    「……仁科は」
    「うん?」
    「どうして俺が腹減ってるって分かるんだ」
     こいつの突拍子もない行動や物言いは今に始まったことじゃないけれど、それは今日もまた絶好調のようで。面食らって思わず瞬きを一つ、二つ。
    「俺がいない時は知らないけど、大体同じ位の時間に飯食ってるでしょ」
    「じゃあコーヒー。いつもなんとなく欲しいって時になんで持ってきてくれるんだ」
    「それは、お前集中するとカフェイン欲しがるから……いや待ってよ笹塚、これなんの尋問?」
     今度は笹塚が面食らう番だったのか、黒縁のスクエアフレームの奥で丸まった黄金色の瞳が俺を見つめていた。問いかけてきた本人がそんなに驚くことか。
    「俺はわからない」
    「わからないって、なにが」
    「お前、わかんないこといっぱいあるって言ってただろ。…俺も、同じだ」
    「…同じ?」
    「ラザルス三年の、仁科諒介…ごんべんの、りょうの、りょうすけ。ネオンフィッシュで俺と一緒に組んでる…ヴァイオリンの音が面白い奴。ただ、それしかわからない」
     不服だとでも言いたいのか、ほんの少しだけ声が、揺らいでいる気がした。しかし表情はいつもと至って変わらないから本当のことは俺にだってわからない。正直笹塚の俺に対する『唯一』はもっと雑なものなのかと思っていた。勿論、キャンプ場で夜を明かしたあの一件から少しは見えるものもあったけれど、それは憶測も含まれている。いざきちんと言葉にされた時の高揚感は何物にも変えられない。
     要は今、俺はめちゃくちゃ舞い上がっている。まるで無重力みたいにふわふわと浮かんでしまっているみたいだ。それに俺が笹塚のことで知っていることよりも、笹塚から挙げられる片手で事足りてしまう項目のシンプルさの方が俺には魅力的に感じてしまった。
    「いいじゃん。俺、それだけですごく嬉しいけどな」
    「よくない。わからないことが多いのはまだいいが、お前がわかることが俺にわからないのは腑に落ちない」
    「へぇ…そうなんだ」
    「なんで笑う」
    「はは、こんなの笑わずにいられないよ」
     よっぽど嬉しさが隠せなかったのか俺を見据える笹塚の表情に怪訝の色が伺えた。あんなに音楽への興味に人生の大半が支配されているのに、今は俺のことを少しでも考えてくれようとしている。笹塚にとっては何気ない一歩かもしれないけど、俺やネオンフィッシュにとっては大きな飛躍になるだろう、きっと。
     立ち上がって、ソファを離れる。そのままイスに座る笹塚の隣に向かうと、笹塚の手首を掴んで特に抵抗も見せない手のひらをそのまま俺の胸元の左辺りに押し当てた。
    「教えよっか、俺が笹塚に知ってほしいこと」
    「は」
    「俺は笹塚創の創る音に惚れてる。それで、これは…俺がお前自身にも惚れてる証」
     煩いくらいに高鳴る鼓動は手のひら越しに嫌でも笹塚に伝わっているだろう。当たり前ながら笹塚に言ったこともなければ、付き合った女の子にも(勿論コンミスにも)言ったことのないような言葉が難なく出てきて、笹塚の反応を待つほんの一瞬がやけに長く感じた。
    「……」
    「…笹塚?」
    「作業する」
    「え?」
     振り払うというよりは必要だからというように、笹塚の手が俺の手から離れると笹塚はさっきと同じようにパソコンに向き直って宣言通り作業をし始めてしまった。お前さっき腹減ってるって言ってなかったっけ。というか、俺、一応告白したつもりなんだけど、伝わってるのかな。ぐるりと思考が一周した辺りで、モニターを見つめる笹塚の顔が急に俺の方を向いた。
    「仁科」
    「うん」
    「今からお前に惚れてるっておとを作る」
    「…それは、えっと」
    「お前が聞かせてくれたのに俺が聞かせないのはフェアじゃないだろ」
     そう思ってくれるのは、嬉しい、けど。なんというか。それってさ、両思いってことでいいの? 自分は言いたいだけ言って、パソコンを前にまた集中モード。本当にこいつのマイペースさには驚く。今日の夕食は寿司か、ピザか、それとも…。作業をしながらでも食べられるような宅配の食事ばかり頼むようになってしまったのは笹塚のペースに自然と合わせるようになったからだ、しょうがない。騒がしい気持ちを抑えつけるようにスマホで見慣れたデリバリーの番号をタップした。

     後日、笹塚の作った俺のヴァイオリンをアレンジした曲を聞かされてドヤ顔している本人の前で赤面する羽目になるのはまた別の話。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works