「こんなこと言いたかないけどね、君は真似事しかできんのか」
教授は白い口髭を撫でながら、F50サイズの大作を前にそう述べた。
作者であるふみやは無言でその言葉を受け入れる。
「模写といえば聞こえはいいがね、ここまでくると君はまるで贋作師だよ。いいかい、自分の絵を描きなさい。それまで見せに来なくていい」
ふみやはわかりましたと素直に頷いたが、握った拳に少しだけ力が入る。
──描けるものなら描いてるよ。
ふみやは絵の上手い子どもだった。
きっかけはとある絵本の挿絵。何気なくその絵を真っ白な画用紙に描いたら大層褒められた。
褒められるのが嬉しくて、ふみやはどんどん絵を描いた。絵本の絵を真似て。
両親はふみやの才能を信じ、画集を買い与え、美術館にも積極的に連れ出した。ふみや自身もスポンジの如く名絵を吸収し、日がな一日描き過ごした。
しかしトントン拍子に美術を学ぶ大学に入ったふみやの前に立ちはだかったのは「オリジナル性」という言葉だった。
ふみやは絵の上手い子どもだったが、人の絵を真似て描くことしかできなかった。
「お疲れ様です。教授のところですか」
小さな紙に細々とした模様を書いていた大瀬が、前に座ったふみやとその隣に席に立てかけられたキャンバスをチラと見て尋ねる。
「うん、もう来なくていいって言われた」
「……今度は何を描いたんですか」
「雨、蒸気、あとなんだったかな。スピード?」
「ターナーですか……」
鎮痛な面持ちはふみやを思ってのことか、大瀬は眉をギュッと寄せ、飄々とした態度のふみやを見つめる。
「まだ、見つかってないんですね……描きたいもの」
「もう贋作師にでもなろうかな」
あっけらかんとした物言いに、大瀬は言葉を紡ぐことができない。
間延びしたような沈黙の後、再びふみやが口を開く。
「まぁ2年に上がるときに修復科にでも転科するよ」
大瀬はその言葉を聞き、そっと目を伏せて絞り出すように「そうですか」と小さく呟いた。
冬休みの構内はいつもより人が少ない。油の匂いが漂う部屋に、また静かな空気が流れる。
「……あと3ヶ月ぐらいしかないですね」
「別に同じキャンパスなんだから会えるだろ。後生の別れみたいに言うなよ」
このあと身体表現科の天彦を見て、初めて描きたいものができたふみやが、天彦に「モデルになってよ」って迫って、最終的に恋仲になれって思ってる。
贋作しか描けないふみやとミューズになる天彦。
多分大瀬とふみやとさるちゃんがファインアート系の学科、油画とか彫刻とか。
テラくんと依央利くんがデザイン系で、理解お兄さん美術史学系とか。
天彦は舞台芸術系とか身体表現できそうなところ。
問題は最後まで書く気力がない。無念。