ゆびのわものがたり滑った、のだと思う。先ず手を伸ばしたのは彼女の頭、その安全が確認出来たら滑る体の動きに沿って身を抱き上げればいい。が、アスランは指の先に引っ掛かる感覚を感じ、光が反射した首のチェーンに肝が冷えた。
——首が締まる。
もしかしたらそれは人生で一番怖い瞬間だったかもしれない。アスランは抱き上げるのを止め即座に引っ掛かった己の指を外す。どん、と身体がぶつかった。衝撃は自分が後ろに下がることで僅かで済んだ。
「わぷ」
呑気な声と反動でそれは宙に浮いて彼女の首元に下げられた。混乱、混迷、困惑、当惑、大変だ。恐怖が勝る危機を回避したと思ったら次なるパニック。
「す、すまない。ありがとう」
「………」
チェーンに下げられた指輪を見て、一瞬自分の妄想かと思った。思いながらも彼女の腕を掴んで引き寄せていたのは反射に近い。どうしてカガリには手を伸ばしてしまうのだろう。いつだってそうだ。血が熱い。思考が消えて、したいことをする。個人的な欲求が抑えられない。それを律する事にも慣れてきたと思っていたのに、危機を感じたことできっと今壊れている。
562