若狭の佐伯物語 義鑑公と五十鈴姫 その③吉日に、佐伯惟治三女五十鈴姫が大友義鑑のもとへと嫁ぐ。
過不足なく揃えられた嫁入り道具のなかには椿の苗木が収められていて、これは五十鈴姫たっての望みだった。
佐伯で椿はよく咲いた。
「府内でも、きっと健気に咲きましょう」と、見慣れた生家の庭に目を細める五十鈴に、惟治が「無理だと思えばすぐに離縁してもらえ。始末は惟代がつけるでの」と声をかけた。
「なんでやる気を削ぐの! 父上は!」と五十鈴が目を吊り上げる。
「オマエは義鑑殿を知らんから、いっとくが儂も惟代も止めたからな!」
「そんなに酷い方とは思いません!」
「鈴、落ち着きなさい。嫁入りも戦と同じで、状況により時に損切りも必要なのだ」と惟代が諫めた。
「ふたりとも、離縁前提で送り出さないでください!」
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