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    ashigaru_k

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    大友義鑑のところに佐伯惟治の娘が嫁に行って、義鑑がメロメロになったらおもしろいよねという史実にケンカ売るIF

    #歴史創作
    historicalCreation
    #大友義鑑
    #佐伯惟治

    若狭の佐伯物語 義鑑公と五十鈴姫 その②若狭が語る――。

    はい、お水を頂きましてのどもよく湿りました。お水といえば、佐伯のお話がもうひとつあるのですけれども、これはまた別の機会に。

    えぇ、五十鈴姫と義鑑公のご縁はないままに、それから二年の月日が経ちまして――。
    この年、筑前国の国人秋月氏が義鑑公に謀反を起こしまして、この乱を鎮めるために鈴姫の兄、惟代公も筑前吉処山城へ出陣いたしました。そこで親しくなりましたのが、同じく陣中におりました義鑑公の重臣、戸次鑑連(べっきあきつら)殿でございます。

    はい、あの雷神の名を轟かせた立花道雪でございます。この頃はまだ鑑連と名乗っておりましたが。
    年は惟代公より六歳上の三十四歳。十四歳で大内氏を相手に初陣を飾って以来、その名を知らぬものはございません。義鑑公の信頼も篤くございました。
    その御姿は武将らしく筋骨隆々、厳めしいお顔をしておりましたが物言いは穏やか。常に落ち着き払っております。同じく、物事に動じず穏やかな惟代公に何か通じるものを感じられたのでしょう。お二人は前世からの旧知であったかのように心打ちとけ、友情を結ばれたのでございます。
    乱はほどなく収まりまして、惟代公と鑑連殿はそれぞれが帰路へとつくことになりましたが、別れ際に長く話し込まれて、話はいつしか互いの主君、義鑑公のこととなりました。惟代公が五十鈴姫の縁談について語られたのです。


    「そうか、妹君がのぅ」
    「もう二年になりますか。いつもは八重殿――、父の室を寄こせとお戯れになられるのですが、その年には妹をと所望されまして」
    「なんとも酔狂な。殿らしいといえばらしいのだが」と鑑連は首を振り、続けて「二年前か、あの頃はなぁ」
    「あの頃は、と申されますと?」と惟代。
    「知っての通り、義鑑公は優れたお方でありながら、むらっ気でな」
    惟代は答えず、これは豊後では皆が知るところで、今更同意を示す必要もない。
    「家臣だろうが女であろうが、可愛がっておられたかと思えば、翌日には見向きもしなくなる」
    「それは何とも」
    「大友家当主ともなれば常人とは異なるからの。二年前は塩市丸様の母君とのご関係が、ちょうどそんな感じであったな」
    「殿には寵愛される方がいて、そのために鈴との縁はないだろうと聞いておりました」
    「その方もとうに里に帰ったわ。塩市丸様を置いてな」
    「なんと」
    「殿の気性の激しさよ。眠りも浅く、常に不機嫌じゃ。せめてもう少し眠りが深ければ、気持ちも落ち着かれようにな」と、鑑連は思うところを率直に述べた。惟代を信頼してのことだろう。
    惟代も当主となって以来、正月対面や評定で召し出されては義鑑を間近で見ていた。気難しいと感じてはいたが、思う以上に難物のようだ。妹と縁がなくてよかったと改めて思う。
    「五十鈴にはどこか、正室か継室で入れそうなところを探すつもりです」
    「それがよかろう。大友の家臣はどうじゃ? 出世しそうな若いのを、なんならワシが口を利くぞ」
    「お気持ち、ありがたく存じます」と惟代は礼を述べ、ふたりは笑顔で別れた。


    同じ頃。府内。大友館。

    義鑑は南蛮貿易で入手した寝台に横たわりながら、まんじりともせず過ごしていた。
    眠りが浅いのは昔からだが、ここ最近はほぼ不眠である。
    眠ろうと瞼を閉じても、思いがあれこれ去来して、結局また目を開いてしまう。  
    気に食わぬことが山ほどあった。

    筑前の国衆秋月が身の程知らずに謀反など起こし(秋月など大内大友間で小間使いをやっておれば良いものを)、肥後にやった実弟十郎は義鑑に反旗を翻し、こちらは数年前に抑え込んだものの不穏な火種は燻り続け、将軍は将軍で秩序を無視して伊藤、有馬などの限界大名にまで偏諱する有様。眠りも浅くなろうというものだ。

    こういった現実だけでも気が重いというのに、忘れたい記憶がやたらと思い出される。厳しかった父、祖父の小言や叱責が耳に蘇っては眠りを妨げ、頼むから死者は死者らしく黙してくれぬものか。

    (まったく、儂が何をしたというのか)

    ひとり寝返りを打つ。長らく褥を共にする相手もいない。
    女を抱けば安らげると思い込めた日々は遠く、射精後の虚しさを思えば性交すら億劫である。

    唯一の気晴らしは長年疎ましく思ってきた佐伯惟治に嫌がらせの文を届けることくらいで、惟治の愛妾を差し出せと言い募ってはその度に断られている。
    惟治からの断りの文とともに届けられる詫びの品々、佐伯の魚だの何だのを昔は美味と感じていたものだが、最近は胃に重たく箸が進まない。
    なぜ惟治が疎ましいのかといえば、若い時分から豊後が誇る名君良主と名が聞こえていたからだ。
    義鑑には厳しい父や祖父までもが、惟治には一目置いていた。一方で義鑑は十四歳で跡目を継いだものの、二人から力を認められることなどないままだった。
    惟治の良い評判を聞くたびに胸糞悪い思いをしたものだが、それも当然であろう。

    まだ元服前だったか、苛立ちを抑えきれずに叫んだことがある。
    「佐伯ほど豊かな土地で、あの程度の土地を収めるだけなら誰でも良主になれましょう!」
    結果、祖父から足蹴りを食らい、屋敷から庭へと蹴落とされた。祖父から話を聞いた父は歯が揺らぐほど義鑑の顔を殴打した。父は病気がちで、伏せることも多かったのだがそうとは思えぬほどその力は強かった。
    どちらも口を揃えて「豊後大友家領主たる者の発言か!」と義鑑が狭量であると叱責した。
    そんなわけで、周囲より名君と崇められた父と祖父であったが、義鑑がその死を惜しんだことはない。

    (忘れたい)

    冴えてきた目を無理につむると、束の間の眠りが訪れ、夢を見た。
    どこかの屋敷にいて、外から馬の嘶きが聞こえてくる。義鑑は幼い。何が悲しいのか涙を流し、鼻を啜っている。ふいにあたたかな気配を感じた。若い女が目の前にしゃがみこみ、義鑑の小さな体を包み込むかのようにそっと抱き寄せ、頭を撫でては優しく語り掛けてくる。良い匂いがして、義鑑はますます泣く。
    女は目を細め、五郎さま、五郎さまとかつての義鑑の名を呼んだ。

    昔から度々見る夢だ。ぼんやりとだが、屋敷の間取りや女の顔を覚えていた。ある時、ふと気になって、古くから仕える家臣に話してみたところ「おそらく宇目でのご記憶でしょう」と教えられた。
    宇目郷は豊後、日向両国境にあり、警備の要を担う地である。大友の人間が滞留することもあり、義鑑も幼い頃に訪れていた。
    滞在時には、宇目郷酒利村本主の幼妻が義鑑をあやしたという。その女はまだ生きているのかと問えばすでに亡く、だがその娘が佐伯惟治の室になったと聞かされた。

    そう知った時の義鑑の気持ちはなんとも形容しがたい。

    本来は自分の妾になるはずだった女を、知らぬ間に惟治に取られていたような、どうにも割り切れない思いを味わった。
    すでにこの世にはいない夢の女が残した娘ならば、義鑑こそ手に入れるべきだろう。
    義鑑は率直に、その女を寄こせと惟治に申し出た。女が必要なら、大友からいくらでもくれてやる。
    だが、その願いが叶えられることのないままに時は過ぎ、すでに二十年近くが過ぎていた。惟治とその女との間には子がふたりあり、うち一人は女子であった。

    二年前に、気に入っていたはずの塩市丸の母がどうにも疎ましくなり、すべてが嫌になった頃。思いついて、惟治に娘を寄こせと文を出した。
    妻を手放すことは頑なに拒み続けた惟治だが、娘であれば断る理由を探すのにも苦労するだろう。仮にも主君の意向だ。
    惟治の動揺を誘い、あの取り澄ました顔に渋面を浮かばせられたなら、少しは気も晴れるというものだ。

    結果、惟治は娘を出すことに同意を示した。もっとも、有難い申し出ではあるが、何分、躾も行き届いていない田舎娘ゆえ御再考のほどを、と難色を示してはいたが。

    その返信を読みながら、義鑑は乾いた笑い声をあげた。本気で惟治の娘をもらうつもりなどなかった。嫌がらせが出来れば十分である。
    当時の大友館では、義鑑の関心を失った塩市丸の母が何かと騒ぎを起こしていた。新しい室を迎える気力などない。

    「嫌がらせできれば十分じゃ。代書を」と、断りの文すら人に任せて申し出を引き下げた。相手が佐伯とはいえ、さすがにコケにしすぎたかと、女子供の喜びそうな品を見繕って同梱するよう命じた。
    ほどなく令状が届いた。差出は五十鈴姫、惟治の娘である。「躾の行き届いていない田舎娘」は礼を重んじる律儀な性格のようで、見たところ筆の運びも悪くはない。
    「佐伯の山出しにしてはマシじゃな」と知らず呟いていた。

    生身の女に疲れた身に、感謝が綴られた素朴な文はほどよくしみた。文はよい。甲高い声で冷酷だと罵ってきたり、泣き声で脅すような真似もしない。
    文を読むうちに興が乗り、気まぐれに義鑑も筆を執った。五十鈴へ、今度は代書ではなく自ら文を書く。大した内容ではない。縁がなかったことは残念だが、送ったものを気に入ったようで何より、その程度だ。
    五十鈴からはまたも返信があり、日を置いてそれに返しとするうちに気づけば二年が過ぎ、もはや書くことも尽きた。潮時である。

    五十鈴は夢の女の血を引いている。年は十五、不足はない。この腕に抱けば、あの夢の続きがみられるやもしれぬ。うつらうつらの眠りから覚めた義鑑は、まだ夜も明けきらぬ暗闇の中、寝所を抜け出し、文机の前に坐して筆を執った。
    今度は戯れではない。
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