混雑した電車内あわあわあわあわ……
寒い冬の朝、混雑した電車内、私は痴漢に合ってしまった。
それも腰辺りまで上げた手をベロベロ舐められるという、大胆な痴漢だ。
犯人を見れば目と耳が大きく、モフモフなクリームっぽい毛並みの可愛いチワワだ。
その子がバッグから顔を出した所に丁度私の手が合り、人懐っこいらしいその子は何の躊躇もなく私の手を舐め始めた。
隣の会社員らしき女性の方と目が合えば、少し申し訳なさそうな顔で軽く微笑まれ会釈された。
思わず腕を絡ませていた隣のカラム先輩を見上げれば物凄く温かな目で私とワンちゃんを見ていて、目が合った瞬間に更に微笑まれ、冬だと言うのに頬が熱くなり、心臓の音が早く煩く鳴る。
(はうぅ〜……)
可愛くて可愛くて仕方ない、とカラム先輩の目が言っている。それが私の手を舐めるワンちゃんへでなく、私に対してだと思うのは、自信過剰で無ければいいな、と思う。
誠実なカラム先輩だからこそ、言葉や表情、目線から感じるこの『愛しい』という感情が全て私に向けられたものなのだと信じたい。
「とても愛らしいですよ」
「────ッ!!」
こそっと耳打ちされた言葉と温かな息が耳に掛かったことで寒さとは違う身震いと体温が1℃は上がったのではないかと思う。思わずギュッとカラム先輩の腕にしがみついたら、カラム先輩も満足そうな顔をした。
手には今もずっと舐められる感触。
これ程までに幸せな痴漢に会う日が来るとは思わなかった。
終点まであと5分。
それまで私は身動きが取れない。
甘い甘い拘束時間。
ずっとこのままであればいいのに、と望んでしまうのであった。