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    ブラウン

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    ブラウン

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    アラカラ(20歳隊長、副隊長になりたて)
    いつも通りイチャイチャしてます。

    腕試し大きな鍛錬場に並んだ机と椅子。その机の上にはところ狭しと酒と豪華な料理が並び、騎士団の騎士達は笑顔で酒を仰ぎ美味い料理に舌鼓を打ちながら今日までの騎士団の活躍、自分達の武勇伝を自慢し合い、共に労いながら肩を抱き合う。話し込む者、笑い合う者、歌い出す者、怒鳴り合いかと思うほどの声量で燥ぐ者等がひしめき合う鍛錬場はとても賑やかで騒がしい宴会場と化した。
    絶え間なく酒や料理をテーブルに運ぶ新兵たちすら楽しそうに走り回り、中には本隊騎士に捕まり可愛がられている若い新兵すらいる。この場にいる全員が今日の大仕事を無事に乗り越えた事を大いに喜んでいた。

    その中をカラムは酒の入ったグラスを片手に忙しなくテーブルを渡り歩く。自分よりも歳上で騎士歴も長い騎士達が自分の指揮に従ってくれたことに感謝し、労りの言葉を掛けて周る為である。
    だが騎士達も若くして三番隊隊長となった上、初めての作戦指揮で期待以上の素晴らしい功績を挙げたカラムを逆に讃え労った。
    何処に行っても自分が掛ける労りの言葉の何十倍ものお礼と絶賛の言葉を浴びせられ続けた事に戸惑いと恥ずかしさと、それ以上の嬉しさでいつもの倍以上の酒を摂取していた。
    現在その頬は桜色に染められ、目と口元もいつものキリッとさは無くなくカラムにしては締まりのない笑顔になっていた。
    カラム自身ずっと肩に乗っていた重圧から解放され、宴会場の陽気さに当てられ酒が回っていた。
    いつもは可愛げの欠片もない言動の彼が滅多に見せない年相応な愛らしさと初々しさに年上の騎士達の心を掴むのに十分だった。談笑する内にどんどん気分が良くなりヘラっと明らかにいつもよりも柔らかく陽気に笑うカラムを座らせようと一番近い位置にいた騎士が手を伸ばした時だった。

    「お〜い、カラム〜」

    突然ガシッとカラムの肩に回された逞しい腕。周りの騎士達はカラムに気を取られ、気配を完全に消して近付いて来たその人物の登場に驚いた。
    「なんだ、アラン」
    だが肩を抱かれた当の本人だけは驚いていない。カラムがアランに目をやれば随分至近距離に顔がある。皮膚の赤さと熱、呼気のアルコールの匂いから相当な量の酒を煽ったのだろうと推測するまでも無い。こういう時の彼はいつも以上に面倒だと経験から知っている。
    ニカッと太陽の様な明るい笑顔で肩を引き寄せられた。少しでも仲良くなるとこの男は誰にでも馴れ馴れしい。たとえ相手が上官になろうとも彼の態度は一切は変わらない。
    「んー俺んところ全然来ねぇから逆に迎えきた〜」
    「お前のところもそろそろ回る予定だったが?」
    一番隊で固まって飲んでいたアランは先程までゴクゴクと上機嫌にグラスを傾け、立ち上がるだけでは飽き足らず、テーブルの上に乗り大きな手振りと声で騒ぎ周りと盛り上がっていた。
    そんな宴会場一番の盛りがっている場所に下手に入れば水を差すと判断し、敢えて後回しにしていた。
    アランからすれば本隊騎士の時は鍛錬もよく一緒にしてい同期と互いに忙しくなった今、顔を会わす機会も減っていた。そんな寂しさを感じていたところでの大規模作戦の成功、祝いたい相手は間違いなくカラムである。
    いの一番に自分の所に来て共に祝って欲しかったのに待てども待てども一切来ないどころか避けられた挙句他者にヘラヘラとした笑顔を向けるカラムが面白くなかった。
    「えー冷たいな、一番に来てくれよ。今回一番頑張ったの一番隊だぞ〜」
    グリグリとカラムの首後ろあたりに額を押し付けて「祝え、祝え」と甘え始めるアラン。その明らかに酔っ払いの言動に不快だと顔を手で鷲掴み離すと「ぐえっ」とアランから声が漏れた。
    「ああ勿論分かっている。今回に限らず一番隊にはいつも感謝しているし、時を見てちゃんと労りに行く」
    アランは一旦後退しその手から逃れてもなお再びカラムの肩に腕を回す。カラムもその腕は拒む事はない。
    「なら今すぐ来い!労りの声掛けでなくさ見世物しようぜ〜、その方がアイツらも喜ぶ!」
    「なんだ、見世物とは?」
    「いいからいいから!んじゃカラム借りるな〜」
    「アラン、まだ全員と話が終わってない!アラン!!」
    「いいって!ってことでお前らも来いよ!」
    ニシシとイタズラっ子のような笑いをしながらカラムを強引に自分のテーブルの方へと引きずり始めた。まだテーブルの騎士たちとの話しが途中だと訴えるも気にしない。それどころかその騎士達も引き連れて行く気満々である。
    良くも悪くも今では完全に騎士団の中心にいる若き三番隊隊長と一番隊副隊長の〝いつもの仲よしアピール〟にそのテーブルだけでなく周りで見ていた者達も苦笑しながら椅子から腰を浮かせた。



    カラムがアランに連れられて来たのは演習場の真ん中辺りだ。
    既にテーブルや椅子は寄せられちょっとしたスペースが出来上がっていた。剣舞でもするのかと思ったがそれにしては狭いスペースである。そこを騎士たちが囲む。
    ただでさえ血の気の多い騎士だ。それが浮かれた宴会時に三番隊隊長と一番隊副隊長が何かを始めると聞けばそれはもう割れんばかりの歓声を上げ大盛あがりだ。これではカラムが拒否など出来る理由はない。毎度の事だがこうやって当然のように退路を経つのは辞めて貰いたい。こういうアランの強かさと頭の回転には舌を巻く。
    「で、何をするんだ?」
    「腕試しだ」
    その一言でカラムはなるほどと理解し、ニヤリと笑った。カラムが表情を取り繕う事も出来なくなっているの見て周りの騎士はざわめいた。
    「久しぶりにいいだろ?」
    「ああ受けて立とう」
    ルールは簡単だ。両手を組み合いアランが全力で押し、直立で特殊能力を使ったカラムを少しでも動かせば勝ちとなる。
    「よーし、今日こそ倒す!!」
    アランが観客に向かい宣言すれば周りの騎士も適当な言葉と歓声で囃し立てる。その中にカラムへの激励も交じればカラムも片手を挙げてそれに応える。戦いはとても地味にも関わらず観戦する騎士達の顔には笑顔が溢れとても楽しそうだ。

    「準備はいいか?」
    「ああ、いつでもな」
    アランとカラムは互いに両手を突き出し、手をガッチリと組み合い、そして合図と共にアランは最初から全力でカラムを押した。
    「おりゃぁぁぁ!!」
    「!!」
    最初こそ表を突かれたカラムの上半身がアランのあまりの勢いに反ったが、すぐに対応しアランからの力を受け止め続けた。

    「いいぞアラン!」「そのまま押し続けろ!」
    「カラム隊長やっちゃえ!!」「アラン副隊長を投げ飛ばして下さい!!」
    そんな外野の声が2人の耳にも届くがそれに応える余裕はない。
    メキメキともギチギチとも聞こえる音が身体から発せらされる。アランは引くことは出来ないが力の強弱は許される為、アランの力に合わせてカラムも同じ力量で押し合わなければならない。
    細かく特殊能力をコントロールしなければ直立で立つカラムはバランスを崩しやすくなる。見た目はとても地味な戦いだが、カラムからすれば凄く神経を研ぎ澄ます戦いである。
    それにアランの力は明らかに数カ月前とは比べようも無いほど強かった。最初身体を反らしたのもアランの力を侮ったせいだった。もし特殊能力無しであれば自分では勝負にすらならない。これがアランが常にコツコツと積み上げてきた努力の証なのだ。それがカラムの目には眩しく映った。

    一方アランは最初の一撃で倒せればと画策していたがあっさりと失敗してしまった。猫だまし程度にはなったようだが、それだけで終わってしまったこと、どんなに力を入れてもビクともしない事に『さすが!』と心で嬉しく思う。
    特殊能力は羨ましいとは思うが妬ましく思う事はない。特殊能力があったとしても騎士に優位とは限らないし、カラムも特殊能力に頼らなくても常に上位に立っている実力者だ。剣では今も太刀打ち出来ない。
    特殊能力など特別な力を無いものねだりをするぐらいなら己の努力で出来るまで鍛錬を続ければいい。自分はカラムの様に頭がよく視野が広く器用に何でもこなせる騎士ではない。地道に得意な分野で積み上げて行くしか出来ないのだから。

    「おりゃあああああ」

    暫くしてアランは息を止め全身全霊の力でカラムを倒しに前えと突進する。が、それすらカラムの上半身を反らせただけで終わった。
    周りの騎士達の2人を讃える歓声の中、結局今日も敗北で終わったアランは膝に手を付き、ゼェゼェと肩の上がる息を整える。血管の収縮すら感じるほどの力みに全身から大粒の汗が浮かび垂れた。
    「また負けた〜」
    「ああ。だがお前も随分力を付けている。手が痺れたぞ」
    一方のカラムは涼しい顔をしながらもビリビリと仄かに痺れる手を見ながらアランを讃える。アランが目をやれば確かにカラムの手は震えその額には薄っすらと汗が見えた。
    互いに酒で身体が暖まっていたとはいえカラムに少しはダメージを与えられた事に嬉しくなる。
    「はは、ちょっとは見直したか?」
    「見直すも何も最初からお前に対しての評価は変わってない」
    「へへっ、ありがたいお言葉で。お前もコントロール上手くなったんじゃないか?」
    「そうか」
    周りの騎士達から歓声と野次が飛ぶ中アランとカラムは久しぶりの互いの成長っぷりに笑顔を向けあった。
    アランは一つ大きく息を吐いて身体を起こし伸びをする。その時ふと自身の手が気になって見た。先程組み合ったカラムの長い指よりも太くゴツい指だ。今まであまり気にしてこなかったが───

    「なぁカラム」
    「なんだ?」
    「ちょっと手出してくれ」
    「??」
    アランは右手の平をカラムに向け指を開いた状態にして差し出した。カラムは新兵からタオルを貰い汗を拭いながらも、まるでさっきの組手を望むようなアランの様子に首を傾げる。
    何がしたいのかは分からないが、仕方なくカラムは左手を出した。先程の様に互いの指が交互になるように組み合い互いに力を入れずに握りあう。
    何となく祈りを捧げているような感じだ。
    それを見ていた周りの騎士たちも不思議そうに2人を見つめる。
    一体何をしたいのかとカラムが明らかに怪訝な顔をするのもお構い無しにアランはニッと笑った。そして「なんか、こうすっとさぁ〜」と手をくるりと下に下ろした。



    「恋人繋ぎじゃねぇ??」



    恋人繋ぎ、親子のようにただ手を繋ぐわけではなく互いの指と指を絡めて親密に繋いだ状態になる。
    確かに手を組んだ状態で下向きに下ろせば恋人繋ぎが完成する。


    確かに、完成する。


    が、爽やかな笑顔で言われたしょうもない言葉に、カラムの口元が大きく引き攣った。
    そして言葉を発することなく握る手に力を入れるのであった。


    その瞬間骨のゴキゴキと鳴る音とアランの悲鳴が宴会場に響き渡ったのは言うまでもない。








    ◆おまけ

    「おい、聞いたか?」
    「ああ……」
    「カラム隊長と組手すると……」
    「恋人繋ぎが出来る……」


    「「「「何でそんな重大な事に今まで気付かなかったんだぁぁぁ」」」


    その後カラムに腕試しを頼みに来る騎士が絶えなくなった。



    強制終了。

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