紅「良いものをあげるよ。手を出してごらん。」
そう言われ、蛇は素直に手のひらを龍に向けて差し出す。すると、ころっと小さな貝が一つ龍の手から蛇の手へと落ちてきた。
「なんだ―――紅、か?」
番である龍の顔と、己の手の上の二枚貝。それらを交互に見て蛇は言う。はまぐりの貝の外側には小さな梅の花が描かれている。中を確認するまでもない。間違いなく、これはよく見る紅である。だが何故―――。
「どこぞで手に入れた?町に下りねば、このようなものは手に入るまい。」
「そうだ。大変だったよ。人に紛れて……紅屋に行くだなんて。肝が冷えたさ。人の姿になるのも久方ぶりだったしね。」
そう蛇に語るうちにも龍の顔色は段々と悪くなっていく。まさにげんなりといった表情だ。気の毒になり、蛇は腕を差し伸べた。遠慮なく身を預けてきた龍を抱きとめ、労をねぎらうように背中を擦ってやる。
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