【折れた翼 浅い壁】“ただ自分に恐怖を与えるだけの存在”
俺にとってそんな言葉が似合うようになってしまったバレーボール。
触りたくもない、見たくもない、なにより、やりたくない。
手がおかしくなる感覚が怖い、手に当たる感触が怖い、自分を殺すように飛んでくるボールが、怖い。
大好きで毎日毎日触っていたボールも、だんだん手をつけなくなっていって、見向きもしないようになった。
昔の大スター選手が大好きで部屋に沢山飾ってあったポスターやグッツも、いつしか物入れに保管されるようになった。
自分の身の回りに、“バレーボール”という概念がなくなっていった感覚があった。
ガキの頃、バネがすごくてスパイカーが打つたびに恐れられてきた、俺のブロック。
けど最近はバレーをやっていない。
ボールにだって触ってない。
それから高校にいかなきゃならなくなって、とりあえずで烏野高校に入学した。
特にやりたい部活もないしな。とかなんとか思ってたから、部活に入る気もしなかった。進学するつもりもなかったから、進学コースでもない。
部活にも、勉強にも追われない普通の日々。
入学してから数ヶ月経った。バレーボールのインターハイの予選結果が出た。男バレは青葉城西に惜敗。女子は相変わらず新山女子が全国なんだそう。
『…烏野高校、準々決勝で青葉城西学園に惜敗…ね…。』
俺は中学北川第一だったから別に青葉城西でも良かったんだけど、あの及川先輩という女子ホイホイ機から逃げるためにこっちに来た。青葉城西にいかなかったの全部及川先輩のせい。
…あの青葉城西に惜敗って、どんなチームなのかと思って放課後体育館へ来た。
『…。』
「おぉい日向!!今日調子悪いのか?!張り切っていこうぜ!!」
「…うす!!」
インターハイ準決勝でギリギリ負けた傷が残ってるんだろうな。笑顔を引きずってる子がいる。しかもなんか怖そうな人いるし(東峰さん)
「…あの…。もしかして、マネージャー希望の子…?」
『っえ?』
後ろから透き通るようなきれいな声が聞こえて、少し震えながら後ろを振り返った。
そこには、もはや(物理的に)光っている美しすぎる方が心配そうにこちらを見つめていた。
というか、マネージャー希望?もしかして女子と勘違いされているのだろうか。
『いえ、様子を』
見に来ただけなんです。と言おうとした次の瞬間。
「うお〜〜〜ッッッ!!潔子さん!!!!お疲れ様です!!!付き合ってください!!!」
と突如告白する変人坊主が現れた。
「…、いいえ」
と意外とすぐに断っていたため、今回で数回目(※数百回)の告白なのだろう。
よく折れないな、この変人坊主さん。俺だったら失恋した瞬間即K,Оだわ。
「…(てかこの状況、なんとか抜け出さなきゃ。このままマネになるのは流石に勘弁して欲しい。せめて男として認識して欲しい。)」
人も増えていく一方。どうしようか、と考えてたその時。
「新しい子っすか?!俺西谷夕!!リベロだ!!」
リベロ!!多分この中で一番低い人!!
元々ジャンプ力には自身がある。
この西谷さんって言う人は大体160くらいだろう(159、3cm)
少し助走をつけたら多分越えられる。
なんか新しいマネ来てすっげぇ喜ばれてたみたいだけど、スミマセン、俺マネ興味ないっす。それに
「―俺はもう、バレーには関わらない」
独り言みたいなちっちゃい声で呟いたこの一言は、ある一人の長身メガネ以外、聞いてすらいなかった。
「…、、、」
「どうしたのツッキー?」
「なんでもない。行くよ山口。」
「うん!!」
月島蛍side
インターハイが終わって、また練習が始まった。
正直あの人達の底が知れない感情はよくわからない。
「―たかが、部活じゃん」
そうだ。たかが部活なのだ。別に負けて死ぬ訳でもない。
ならなぜ、あいつらは必死にコートを駆け回る?完璧なトスを上げる?いやらしいサーブを打つ?
「ほんと、日向に感化された奴等は底しれないね」
僕もならないように気をつけよ、と思って体育館へ向かった。
「!おはようツッキー!」
「ん」
幼馴染の山口。
こいつと話すときは変な気を使わなくて済むから気が楽だ。
「うぉぉぉぉぉ!!!」
と大きい声が聞こえ、後ろを振り返ってみると
雄叫び?を上げながら体育館へ猛ダッシュする先輩、西谷夕の姿があった。
今日も日向(バケモノ)組は元気だな。とか思ってたら体育館付近についた。
「見てツッキー!入り口なんか混んでる」
そこには先程ダッシュで自分を通り過ぎていった西谷や日向(バケモノ)、清水さんの姿があった。
なに群れてるんだ、とふと思い近づいてみると、その中から西谷の頭上を軽々と超え、逃げるようにその場を去っていく…男性?の姿があった。
その時聞こえた言葉
“俺はもうバレーボールには関わらない”
決意を込めたような、諦めたような。言葉だけ聞いたらそのような意味合いに取れる発言を彼の顔を見た瞬間帳消しにした。
自分に言い聞かせているのだ。
自分はもうバレーボールには関わらない
“関われない”と
辛いような、苦しそうな顔を。
たったその一言に、色んな感情を乗せて。
「(なんだろう、この感情は。
別にバレーをどう思ってても彼の自由だろう。僕には関係無い話だ)」
そう言い聞かせ、僕は体育館へ一歩踏み入れた。