【ウリサン】よるべになりたい鼻先を僅かに潮の匂いが掠めて、顔を上げると。
チョコボキャリッジはホライゾンからベスパーベイに向かうトンネルへと入るところだった。
「にしても兄ちゃん、こんな時間にベスパーベイに行ってどうするんだい」
少しばかり呆れたような、疲れたような御者の声に。
俺は頬の筋肉を僅かに緩めて、“人好きのする青年”の顔を作る。
「明日の朝一番にリムサ・ロミンサ行きの船に乗りたいんだ」
「へぇ、リムサ・ロミンサへねぇ。傭兵稼業か何かかい?」
「いや」
頬に加えて、目元の筋肉を緩め、なにか“愛しいもの"を見るような顔を作る。
「恋人に会いに行くんだ」
努めて柔らかくした声で、俺は言葉を”紡ぐ”ように口にする。
「冒険者ギルドの仕事で、リトルアラミゴ近くの遺跡の調査に駆り出されてさ……3ヶ月ぶりに会うんだ」
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