圭藤♀まったくこいつらときたら、どこででもこんなことをやってるんだろうか。
「なんだよ元気っ子、やけにおとなしいじゃねえか」
遠足前のちびっこのごとく、ぴかぴかと瞳を輝かせているのは我が彼女。金曜日の放課後だというのに、打って走ってと大はしゃぎで練習を終えました。えらくほっぺたが赤らんで映るのは、ようやく沈みはじめた太陽のおかげだけじゃないだろう。今日も野球、明日も野球、おまけにちょっと億劫な授業もないとくれば、ごきげんにならない理由はない。実際、よく通る声のトーンもいつも以上に弾んでる。
「ほら、いつものやるか?ぎゅーってやつ」
テンションを裏付けるように、パッと、両腕をひらかれた。制服に着替えたばかりの彼女はまだどこか上気していて、それがまた子供のようにも映る。思いきり公園で遊びまわったあとに、両親にだっこをせがむような。かけっこして帰るその途中で、兄弟におんぶをねだるような。
「大丈夫だよ、俺は」
まだこっちも80%くらい残ってる、とスマホの画面をタップすれば、「げっ、お前だったのかよ、」、と気まずそうに目をそらされた。
見た目だけだとわかんねえんだよ、顔に名前書いとけよ、なんてぶつぶつと言葉が多いのは、フルオープンな照れ隠しだ。引っ込みがつかなくなっただけなのか、ウェルカムモードな両腕も変わらない。
名前書いといたってどっちみち同じだろう、なんて冷静に思いながら、「けどまあ、明日の朝までの分、充電しとかないとな」、彼女を懐へ手繰り寄せた。
宙ぶらりんだった腕の下から抱きしめる。
君は、ひどく素直に抱きつき返す。
「お、おう。もうひとりの分まで、ちゃんとためとけよ」
ああ、えらくほっぺたが赤らんで映るのは、ようやく沈みはじめた太陽のおかげだけじゃなかったようだ。声のトーンが弾んでいたのも、ぴかぴかと瞳を輝かせていたのも、なんなら、“俺“がいつもよりおとなしいなんてすぐに気がついてくれたのも。
「……うん、」
響く返事は、自分のものとは思えないくらい甘えてしまった。
制服に着替えたばかりの彼女からは、ソーダみたいなシュワシュワやさしい匂いがする。