圭藤♀すぐ作っちまうから待ってろ、が進化して、こないだと同じ焼きそばでいいか?、になったころ。
「うん、あの焼きそば好き〜」
俺は君の家で、ようやく緊張せずにダイニングテーブルに腰かけられるようになってきた。
いつもは、君の家族が座る席。
俺じゃない人がつけた傷がいっぱい残る、誰かの席。
俺は葵っちの背中が好きだ。
部活のときみたいに金髪を結んで、くたっとしたエプロンをつけて、こっちからは表情なんか見えないのに絶対なんかごきげんそうなのが伝わってくる。
野菜を切って、お肉を解凍して、冷蔵庫やキッチン下の扉を脚でボンッと閉じている。
なんてことない景色だけど、俺にはまだ指折り数えるくらいしかお目にかかったことのない光景だからさ、スマホもいじらずに、じーっと君のことばかり見つめてるってわけ。
『主人、』
うわ、びっくりした。俺みたいな声がすると思ったら、俺だった。
どうしたの、珍しいじゃん。智将もおなかすいたの?葵っちのごはん、おいしいよねえ。
『主人、なにか手伝わなくていいのか?となりに立てば、もっと近くで藤堂のこと見られるぞ』
おー、なるほどね。ふふ、と俺は頬杖をつく。
「智将はそういうのが好きなんだ?」
『は?いや別に普通だろ、その、好みとかじゃなくて、ご馳走になるのに何もしないっていうのは、』
「はいはい」
要、なんか言ったか?まだ続きがありそうな脳内の“俺“を黙らせて、「ん、葵っち手伝う。なんかやっていいことある?」、いつもの席から立ち上がった。
となりに並ぶ。横顔を盗み見る。
「おー助かる。じゃあシンクのもん洗っちまってくれ」
たしかにここから見る彼女の顔のほうが最高かも、“俺“もそう思うでしょ?
「了解〜」
俺たちは、じーっと君のことばかり見つめてるってわけ。