圭藤♀毎日顔を合わせていたってね、そりゃあデートは特別ですよ。
前の日から、あれ食べよっかな、ここ行こっかなって。葵っち、おいしいって笑ってくれるかな、楽しいってはしゃいでくれるかなって。
寝ても覚めても君ばかり。
いつでもどこでも、君のことだけ。
「要!」
『あと一駅』の短いメッセージと時計を見比べてニヤニヤしていれば、はずんだ声に背中を叩かれる。
「悪りぃ、ちょっと待たせた」
「っ!ぜ、ぜーんぜん!そんなことない、」
よ。
振り返った先にいる彼女は、いつも通りかわいくって、いつもよりなんだか大人っぽくって、いつもの五万倍スカスカして見える。ショートパンツ?ホットパンツ?太ももまで丸見えの葵っちは部活のときみたいに元気いっぱいで、だけど学校じゃ絶対お目にかかれない特別感がある。
ていうか初めて見たそのカッコ。新しく買った?かわいいね。
「じゃなくて!葵っち脚!肌!肌色多すぎだから!」
「いいだろ、姉貴に借りてきた」
「あ、お姉様の…………じゃなくて!!すごい似合ってるけど!めっちゃかわいいけど!他の人に見せたくないんだってあんまー!」
デート早々、こんなジタバタ抵抗する彼氏ウザいよね。
でもでも本心だし、と眉を寄せているうちに、「んじゃそれ貸せよ」「えっ、」、俺はアウターをひん剥かれる。
「ほら、これでいいだろ」
上着を腰に巻きつけた葵っちは、どうしてか妙にご機嫌だ。するりと俺の腕にもたれかかって、体の隙間をなくすくらいぎゅうーっと体重をかけてきた。
「で、映画館どっちにあんだよ」
俺が風邪引かないように?
俺をハラハラさせないように?
君はいつだってとびきりやさしいね。
俺もおんなじくらい楽しませられるかな、映画気に入ってくれるかな。
「えーっとね、」
寝ても覚めても君ばかり。
***
毎日顔を合わせていたって、そりゃあこの日は特別だろう。
前日から何を食べようか、どこへ行こうか、藤堂の好物だろうか、家族と行きすぎて飽きてやいないか。
寝ても覚めても君ばかり。
いつでもどこでも、君のことだけ。
「智将!」
『あと一駅』の短いメッセージで改札に目をこらす。ブン、と大きく手を振って現れた待ち合わせの人物は、ずいぶん声がはずんでいる。
「悪りぃ、ちょっと待たせた」
「いや、遅延は遅刻じゃないだろ、」
う。
小走りにやってきた藤堂は、制服より大人びていて、学校より開放的だ。なんと呼ぶのかはわからない、ずいぶん丈の短いパンツを履いていて、遊び回る気満々、という気合を感じる。
健康美、そう健康美だ。
秋もそろそろ深まろうかという季節に、やたらと肌を露出させているのも。部活のときは隠れている長い脚に、ちらちら視線を奪われるのも。
「なんだよ、どっか変かよ」
「え?あ、全然、そんなことない。よく似合ってるよ」
「じゃあ腹痛てえとか。そんな乗り気じゃねえとか?」
「まさか。どうしたんだ急に、藤堂、」
「だって、さっきからお前ずーっと、俺のほう見ねえじゃん」
ウッ!と透明な拳を喉奥まで突っ込まれたような気分になりながら、何を言っているんだ、極めて冷静に口を開く。
そんなことないよ、俺だって楽しみにしてたよって。
「目のやり場に困ってるんだ、その、すごく丈が短いから、」
口から飛び出たのは、話そうと思っていたことにはかすりもしなかった。
「ふうーん、」、ニヤニヤと、砂時計でもひっくり返したみたいに途端に藤堂の口角が上がる。
「んじゃそれ貸せよ」「うわ、」、薄手の俺の上着はあっさりと奪われて、彼女の腰に巻きつけられた。
「ほら、これでこっち見れんだろ」
返事を待つ気はないらしい、そのままずいっと顔を寄せられる。
「ちゃんと見ろよ。せっかくお前のために可愛くしてきたんだから」
そうだな、近すぎて藤堂しか見えないよ。
いつでもどこでも、君のことだけ。