智藤♀と圭藤♂俺たちとっても仲良しです。
朝はドツきながら自主練をこなすし、昼は課題のノートを見せる見せないで言い争う。夕方はお互いの恋人を駅まで送り届けていっしょに帰るし、夜はさっさと風呂入れとケツを叩いてる。
行ってきますもいただきますもただいまもいっしょな仲だからさ、「明日、葵っちと映画行くんだ〜」「そうか、俺も藤堂と行くぞ」、翌日の予定が被ることだって珍しくない。
俺たち、とっても仲良しな双子です。
まあ、さすがに映画のタイトルまでおそろいってわけじゃなさそうだが。
なんとなくあたりを見渡して、人の多さに藤堂の手をきゅっと握る。いるかいないかわからない双子の片割れより、かわいらしくて人目を引く本日の相方のほうがずっと大事だ。
「智将、パンフとか買う派か?まだ時間あるし、なんかあったら今買えるぜ」
彼女も、楽しそうにきょろきょろとあちらこちらを指差してる。普段は野球最優先だから、朝からふたりで出かけること自体久しぶりだ。
「いや、今回のはいらないかな……」
「藤堂こそ飲みものとか」と、パッと頭上のメニュー表に目を移した途端、ぐっとつないだ手を引かれた。
ポップコーンの広告でも、もちろんグッズ売り場でもない場所を指し示した藤堂が、「えっすげえ、あれ要じゃね?」、やけにウキウキと声を弾ませる。
おいおいおい、タイミングよ。
今朝も昨夜も、「主人、俺はもう行くぞ」「はあ〜い、気をつけてね〜」なんなら家を出る直前にだって会話を交わした同じ顔が、映画館の入り口からはしゃいだ足取りでやってくる。幸いにも、彼らは彼らで会話に花が咲き乱れまくっているようだ。俺たちに気づいている様子はない。
どうする、なんて悩む暇すらくれなかった。
「おーい、要、」
ごくごく自然に一歩踏み出した彼女を、ここ一番の焦りで引き留める。
別に、俺たちとっても仲良しな双子だけれど。
別に、君が誰と仲良しでも全然全く問題ないけれど。
別に、今じゃなくてもいいんじゃないか、なんて。
つないだ手に力を込めすぎていたのだろうか。ぽかんとこちらを見る藤堂に、「あ、ああ、悪い、」、慌てて言葉をひねりだす。
「別に、今アイツに声かけなくてもいいんじゃないか、って、」
慌てすぎた。脳内に浮かんだそのままを、ストレートに君に放ってた。
それでも、否定も撤回もするつもりはない。
願うように腕を引けば、藤堂のほうから俺の懐へ飛び込んできた。ずいぶんと、機嫌の良さそうな表情をしている。
「そうだな、あっちもデートだしな」
「あ、ああ、」
「なあ、チラシんとこ行かねえ?次何観に来るか選ぼうぜ」
「え?これから観るのに?もう違う映画選ぶのか?」
ぐいぐいとかけられる体重をもろともせずに歩き出す。近すぎる君との距離に、勝手にニヤけてくる唇はきゅっと引き締めてやらなきゃいけないが。
俺たち、とっても仲良しですけど。
今日一日は、君とこのまま。
***
俺たち、とっても仲良しです。
朝は眠い目をこすりながら台所に並ぶし、昼は智将のノートを奪い合う。夕方はお互いの恋人と駅で別れたあと夕飯の打ち合わせをしつつ電車に乗り込むし、夜は皿洗いと風呂の順番でひと勝負だ。
朝メシできてるぞもおかわりするかも皿は流しに浸けとけよもいっしょな仲だからさ、「あ、明日智将と映画行くから昼いねえわ」「マジかよ、俺も要と出かけるぞ」、翌日の家族のメシの用意を大急ぎで済ませることも珍しくない。
俺たち、とっても仲良しな双子です。
まあ、さすがに見かけたからって声かけてえほどじゃねえけど。
何気なくあたりを見渡して、気がついてしまった自分に思わず「げっ」と本心が漏れる。
見知らぬ男じゃないとはいえ、彼氏といる双子の片割れなんてできればあまり知りたくない。
「ほい、チケット発券できたよ〜。何見てるの葵っち?」
しまった、意外と目ざとい要に勘付かれた。
あー、何でもねえよの声より早く、「あっ!あれ智将と葵ちゃんじゃーん!」、探しものゲームに正解されてしまう。
そういえば智将もデートだって言ってたんだよね〜という上機嫌な君のつぶやきが、何観るんだろ、俺たちと同じやつだったりして〜まで差しかかったその瞬間。
「うおおっ、えっ、葵っち、!?」
思わず、体ごと飛び出していた。なかば羽交い締めでもかけるように、背後からぎゅうっと我が彼氏にのしかかる。
手を引くとか、口を塞ぐとか、そういうのでよかったななんて後悔してももう遅い。突然のことに戸惑いながらも、要がくるりと見上げてくる。
別に、俺たちとっても仲良しな双子だけれど。
別に、君が誰と仲良しでも全然全く問題ないけれど。
別に、今じゃなくてもいいんじゃないか、なんて。
どうしたの?の言葉より早く要を安心させたくって、慌てて理由を引っ掴む。
「いや、そんなん今じゃなくていいだろ。せっかく俺といるんだし」
慌てすぎた。言わんでもいい本音だけを、ズルッと一本釣りしてしまった。
それでも、まあなんも悪いこと言ってねえかと即座に思い直す。
案の定、腕の中にいる要の顔はにひにひと信じられないくらい溶けきっている。
「ねえねえじゃあさあ、ポップコーン買いに行こうよ」
「お、おー……、え、お前映画終わったらパフェ食うっつってなかったか?」
「だいじょぶだって、こんなの空気といっしょだから!葵っちどの味がいい?」
「はいはい、半分こがやりたいだけな。梅カツオ」
「え、そんなやつある……?」
歩きにくさはいつものこと、要に寄りかかってのしのし進む。ぽこぽこと弾む君の声に、緩みかける財布の紐だけはそこそこ引き締めておかねえと。
俺たち、とっても仲良しですけど。
今日一日は、君とこのまま。