愛しみに初恋 11話(途中) 視界に映るのは数週間ぶりの豊前の姿だった。見慣れたスーツを着崩し、真冬にも拘わらず汗を滲ませ荒々しく息を弾ませている。急いで豊前の頬に触れ、滴る汗をレースの袖口で拭った。
「なんでここに……」
「桑名から色々聞いた。やっぱり話がしたいと思って、俺は」
頬に触れた手首を掴まれると共に、彼の心憂い表情に心臓が締め付けられる。その気持ちへ蓋をするよう豊前から紡がれる言葉を「ちょっと待って」と遮った。本当はその先を知りたい。でも、豊前の言葉を受け入れるとこれまでの決断が全て水の泡になる。私はまだ豊前の元には戻れなかった。
「なんでだよ」
「まだ話の蹴りがついてないから。来週には連絡できると思うからそれまで待って欲しい」
4257