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    2kurokma

    @2kurokma

    小説の進捗とか成人向け推しカプとかのせる予定
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    2kurokma

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    パレヴィア神父とジョセとスカの話。
    殿下に指輪渡されたジョセが戴冠式の後に島にやって来て神父と色々喋ってる。カプ要素はないです。

    「おい、荒くれ神父。死なれる前に来てやったぞ」
     ドンドンとがさつなノックの音に何事かと思えば返事をする間もなく扉が開かれ、そこにはコルニアの元騎士団長であり今は宰相として国王アレインを支える親友が立っていた。
    「……来たのか、ジョセフ」
     神父は寝そべっていた半身を起こし、読んでいた本を寝台の近くにある棚に仕舞った。
     神父は足が悪かった。大司教の娘スカーレットがこのパレヴィア島に来てから八年程経った辺りで突然、自力で立てなくなったのだ。目の前に立つ友が解放軍を結成し、祖国のために暗躍する姿を真横で見ていたものだから、倒れた当時は悔しくて情けなくて仕方がなかったのだが、今はもう慣れてしまった。
     この部屋の本棚や筆記具はいつも寝台にいる神父の手の届く範囲にあるようにと、スカーレットが配慮してくれている。その寝台の近くにある一人用の椅子に友はどかりと座り、手に持っていた豪華な装飾が施された本をこれまた雑に手渡してきた。
    「この前手紙で欲しいと書いてた本だ。やる」
    「お、おう……。本当に取り寄せてきたのか」
     若干驚きながら受け取ると、「お前が頼んだんだろ」と言わんばかりの鋭い視線が飛んできたので、悪かったよと釈明するようにひらひらと手を振った。
     コルニア王子アレインの戴冠式が終わった頃に、グランコリヌ城から二通の手紙がこの家に届いた。一通はアレインからスカーレットに向けて、もう一通はジョセフが神父に向けて送ったものだった。
     手紙にはこれまでの解放軍の話とか、こちらは色々あったが戴冠式を終わらせやっと一息ついたとか、そんな感じの内容が私的な文章を書くのに慣れていなさそうな、お堅い文章でしたためられていた。
     昔は美女を見つければすらすらと口説き文句を並べていたのにと揶揄うような気持ちで読み進めていたら、近いうちに島に行くから土産に何が欲しいか連絡してくれと、追伸で小さく書かれていた。そんな大事な話追伸で書くなよ、不慣れにしてももう少しなんかあるだろと内心突っ込みながら、神父は返信にこっちもまあ元気だとか、イレニア様が生きておられて良かったなとか書いていき、最後に追伸で「エルヘイムでしか手に入らないというエルフの書いた小説が欲しい」と冗談交じりに付け足して封をしたのだった。
    「そりゃあ欲しかった本さ。だがこんなに早く……、返信出してから一ヶ月で来るとは思わなかったぞ」
    「…手紙に書いただろ」
    「追伸にな?知ってるかジョセフ、そういうのは本文に書くんだよ。というかお前そういう書類書く仕事得意だったろ」
     そう突っ込めばジョセフはうぐ、と唸った。
    「領主や貴族と手紙でやり取りすることはあったが、あくまでも騎士団長としての仕事だった。……友に、ただのジョセフとして手紙を渡すとなると、何をどう書けばいいのか…」
    「……そう言われれば、確かに。会おうと思えば何時でも会えたもんな、俺ら」
     よくよく考えてみれば、ジョセフとこうやって手紙を使ったやり取りする機会など一度もなかった。自分が騎士だった時代は、わざわざ文章にせずとも直接会いに行って話せたし、騎士を辞めてからは神父になるための修練に明け暮れ、手紙を出す暇などなかった。そこからやっと神父として認められ、聖堂を管理する者として任命されて故郷パレヴィア戻りさあこれからやってやるぞという時に、故郷と王を失った騎士団長と王太子がこの島に逃げ落ちてきたのだった。
    「まぁともかく……会えて嬉しいし、本も助かったよ。する事がなさすぎて家にある本も全部読み終わってしまってな。エルフが書いた本は初めてだから楽しみだ」
    「……そんなに面白いものなのか」
    「いや。俺も前に噂でこういう本があるってなんとなく聞いた程度だからな。…それよりも」
     本の表紙をそっと撫でる。噂によると、長年生きて老いさらばえたエルフが己の死に向き合った思いを綴った哲学書だという。
    「エルフが……俺と比較にすらならないほど生きて世界を眺めてきた人は、どんな気持ちで終わりへ向かう準備をしたのか気になって」
    「やはり返せ」
     突如として奪い取るように伸ばされた手から、神父は本を守るようにして抱えた。
    「なんでだよ!俺にくれるって言っただろ」
    「それはそうだが、想定した通りの答えが返ってきて腹が立つ」
    「なんだそれ」
     意味が分からなくてそう問えば、友は呆れたようなため息を一つ吐いた。訳が分からない。
    「……お前が当然のように死を受け入れてるのが腹立つと言ってるんだ」
    「…………それは、仕方がないだろ。いずれ来るものなんだから」
     本を買うにあたって、内容のことも事前に調べていたのだろう。足の動かない老人がこんな本を欲しいと頼んできたら、何を考えてるのかなんて丸分かりだろう。それも長い年月を共に駆け抜けてきた友なら、尚更。今更そのことに思い至り、少し申し訳ない気持ちになる。
    「でも、お前の気持ちを考えてなかったのは悪かったよ。…ならさ、少し前を向くかわりにもう一つだけ頼んでいいか」
    「……一応聞いてやる。なんだ」
    「スカーレットを、この島から連れ出してほしい」
     一人で歩けなくなったことに、慣れた。ここで言う慣れたというのは、騎士として名を馳せた昔の自分はもう居ないのだと、少しずつ体が終わりへと向かっているのを受け入れたという話であって、十年近く側で成長を見届け、解放軍の旅と使命を経て一人前の司祭になった娘に、老人の介護を押し付けていることではない。むしろ今すぐにでもやめさせたかった。
     だというのに、友は先程より大きなため息を吐いて舌打ちをしてきた。
    「…本当なら一発ぶん殴ってやりたいところだが、スカーレットに免じて止めておく。彼女に感謝するんだな」
    「そんな言う?」
    「スカーレットがどんなにお前を大切に思っているか、分からないお前ではないだろう」
    「それ……。陛下のお気持ちを十年も察せず契約の儀式で言わせたお前が言うか?」
    「……今、私の話はしていない」
     痛いところを突かれたようで、ジョセフは一瞬だけ目を逸らした。
     手紙には、一角獣の指輪の力を引き出すため最も信頼する者に対となる指輪を渡す〈契約の儀式〉の契約者として、アレイン陛下(当時は殿下だが)直々に祭壇に呼び出されたことも書いてあった。この名誉ある役割をわが友はあろうことか一回断ったらしいが「父親のように思ってる貴方とコルニアの未来を歩みたい」と言われ、ようやく負けを認めたとのことだった。
     正直なところ「まだ主従関係で止まっていたのかよ」というのが、まず出てきた感想だった。アレインがまだ島で過ごしていた時、ジョセフが島の外に出る際は神父の元に預けられていた。その時のアレインは必ず一回はジョセフの昔の話をしてくれとせがんできた。ジョセフと話す時もその目には主君としてというよりは、親に見せるような敬愛の情を映してたものだから、とっくに父子のような関係になってるのだとばかり思っていた。それがまさか、解放軍の旅の終盤までどちらも言えずに来ていたというのだから流石に引いた。アレインではない。ジョセフにだ。
     本当は大人として、友として、息子と呼べる程度に年が離れている主君から言わせるのはどうなんだと詰め寄ってやりたかったが、今この話を出すと脱線しすぎて大喧嘩になる未来が目に見えてるので、とりあえず話題を戻した。
    「スカーレットのことは大切に……それこそ実の娘のように思っている。だが、実の父親を失ったばかりのあの子に介護の真似事をさせる上に、俺が日に日に弱っていく姿を見せるくらいなら、まだ元気な内に別れた方が傷つかないと思うんだ。だから」
    「無理だ。諦めろ」
     こちらの言葉を遮りバッサリと斬るジョセフに眉を寄せる。
    「…検討くらいはしてくれよ」
    「解放軍に多大な貢献をした報酬に何が欲しいかを問われ、お前を介助する用具が欲しいと言ってきた娘だぞ。私から…いや、お前から言っても聞かんだろ」
    「…………は?」
     寝耳に水どころか矢を入れられたような衝撃が体を巡り呆然とする友を横目に、ジョセフは言葉を続けた。
    「お前を外へ散歩させるために支えながら歩くと、申し訳なさそうな顔をされるのが辛いから、座りながらでも動ける物を作って少しでも気が楽になってほしいんだと。そこで私とアレイン陛下が選りすぐりの職人達を呼び寄せ、座席に車輪が付いている用具を作らせたというわけだ」
     あまりの衝撃にジョセフの言葉が耳から耳へと通り抜けかけたが、さらりと出てきた人物に頭を抱える。陛下も絡んでおられるのか。こんな辺鄙な島の神父ごときに。
    「いや…お前ら何やってるの…本当に……」
    「それだけ、スカーレットはお前の隣にいたいということだ。……例え、お前の最期を目の前で見ることになっても。その選択をとった彼女の覚悟の強さを、よく考えておけ」
     がたん、と音を立てて椅子から立ち上がり、ジョセフは背を向けた。
    「そろそろ帰る」
    「え、来たばかりなのにもう行くのか」
    「用具を渡すために来ただけだからな。次に来るときは陛下も連れてくる」
    「は…本気か…?」
    「島で世話になっていた礼がしたいと仰っていた。本当なら今日お連れできたら良かったのだが、やはり中々都合がつかなくてな」
     本当に陛下が今日来られなくてよかったと、神父は心底ほっとした。いや、彼が多忙で休みが取れないというのはそれはそれで心配なのだが、もしも今日来ていたら情報量が多すぎて失神してたかもしれない。
    「…とにかくそういうことだ。……精々くたばらず、あの方を失望させることのないようにしておけ」
    「…ジョセフ」
     扉を開けて去ろうとする彼に声を掛ける。
    「心配してくれて、ありがとうな」
    「…………なら、次はあんな本頼むなよ」
     ただ用具を渡したいだけなら、宰相として多忙な筈のジョセフがパレヴィア島に来る必要はない。それでもここに来たというのは、そういうことなのだろう。
     昔からそうだった。がさつで分かりづらいが、それでも心の奥に確かな優しさがある男だった。
    「分かった。じゃあ、またな」
    「……ああ、また」
     ほんの一瞬、長年共にいた神父にしか気付かないような分かりづらい笑みを浮かべ、ジョセフは去った。
     
     部屋に入った時よりかは優しい扉の閉まる音を聞いて、神父はどさりとベッドに倒れた。久しぶりにこんなにも気力を使った。
    (覚悟、覚悟か……)
     どうすればスカーレットが一番悲しまないで済むのか、倒れてからそればかり考えていた。特に、彼女の父が死んでいたと分かってからは。
     しかし、島を飛び出して使命の旅を終えた彼女は、自分の想像が遠く及ばないまでに成長を遂げていた。敵に攫われて、心細くて苦しい時期もあっただろうに。
    (なら、俺がすべきことは…)
     ふと、いつもの優しいノックの音が聞こえてきた。
    「神父様、ちょっといいですか?」
    「ああ、入って…、いや、少し待ちなさい」
     扉越しにスカーレットの声を聞き招き入れようとするが、ジョセフから貰った本が目に入り、慌てて彼女から見えないであろう位置にしまう。友には弱みを見せれても、彼女にだけは絶対に知られたくなかった。
    「入ってきなさい」
     声をかければ扉がそっと開き、緊張した面持ちのスカーレットが入ってきた。
    「その…。神父様、私ね、実はジョセフ様にお願いしてた物があって……」
    「そのことならあいつから聞いている。私のために頼んでくれたのだろう?ありがとう、スカーレット」
     感謝を告げれば、緊張しきった顔に笑みが浮かんだ。
    「ほ、本当?それなら良かったです。座席に座って手で車輪を動かせば、自由に移動できるんですって。だから…」
     そこまで言って、ふとスカーレットの顔が少し曇った。
    「……私は神父様が座るのを手伝うだけでいいから、外で神父様一人でいられる時間ができて……その、いいかなって!」
    (…俺は、いつもこんな顔をさせていたのか)
     無理をして、それでも健気に明るく伝えようとする姿を見て愕然とした。スカーレットはいつか来る別れを受け入れる覚悟を決め、限りある時間を後悔のないように、自分の隣で過ごそうとしている。離れることこそが彼女のためになると思い込んでいたが、実のところただの独りよがりでしかなかったのだと思い知らされる。
    (ならば俺のすべきことは、したいことは、定まった)
    「スカーレット」
    「は、はい」
    「…実は一人だと心細くてな。君がよければ、話し相手になってほしい」
    「!!はい……はいっ!」
     途端にぱっと花がのような笑みが満開に咲き誇り、神父は内心で安堵のため息を吐いた。
    「あの、ちょっと今、用具持ってきますから!待っててくださいね!」
    「…転ばないようにな」
     スカーレットの覚悟が決まっているなら、自分もそれに応えるべきだと思った。逃げずに最期までスカーレットと向き合い、話して、共にいたかった。
     ぱたぱたと浮き足立つ足音が遠くなっていく。その音が再び聞こえてくるまで、神父はこれからの未来に思いを馳せ、目を閉じていた。
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