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    IorI

    雑多です。文字と絵。書き散らし。

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    IorI

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    昔書いてたものを、加筆修正したものです。
    左右は特に考えていません。宜しければご覧下さい。
    ちょろっとだけキス表現があります。

    #エスシビ
    #シビエス

    真夏のドロワそれは、暑い夏の日だった。
    ソーダ味のアイスを頬張りながら、横目に彼女を盗み見る。エースはバニラアイスを齧りながら、首にかけたタオルで額の汗を拭っていた。

    一時間程前。
    天気が良くて、風も程よく吹いてて、空気も美味しい。そんな絶好だと言える日に走らない理由などなくて、エースをランニングに誘い込んだ。勿論即答で承諾されて、朝一から目的地もなく走っていたのだが、太陽が真上に近付くにつれ、お互いにバテるのが早くなってきた。汗は滝のように流れるし、喉がいつもより熱く感じるのだ。いくら最高に気持ちが昂っていて走りたい気分とはいえ、真夏の炎天下で、お互い頭が馬鹿になって倒れてしまうのもつまらない。だから、ここらで休憩にしようというエースの提案で、少し休憩することにした。

    たまたま見つけたこじんまりとした駄菓子屋の前、少し煤れたベンチに座り、ミンミンゼミの元気のいい声を聴く。お店のおばちゃんが汗だくのアタシたちに気を遣ってくれて、お水やら塩飴やら無償で提供してくれた。流石に何も買わずに居座るのも悪いというエースの考えに同感して、アイスを一本ずつ購入することをアタシが提案し、ついでにおばちゃんのオススメの駄菓子をいくつか買った。エースには帰りのことも考えろよ?なんて言われたけど、今少し食べちゃおうって気分だったし、何も問題ないとそのまま買い進めたのが少し前の話だ。

    そして、今に至る。
    少し休憩するつもりだったのに、居心地が良くて時間も気にせずぼーっとしてしまう。エースもそれは同じみたいで、いつもより口数が少なかった。

    残り一口のソーダアイスをしゃくしゃくと咀嚼し、飲み込む。

    「ねぇ、エース」
    「ん?」
    「キミ、明日って暇だっけ」
    「まあ、そうだな。自主練しよっかなーって考えてたくらいだけど…」

    エースの顔をじっと見つめると、エースはなんだよ…という台詞と共に少し顔をしかめっ面にする。多分、アタシが言いたいこと分かってるハズだ。この先言うセリフを、キミに何回言ったか覚えていないもの。

    「じゃあ、今日一日帰らなくても平気だよね?」


    ✤✤✤


    「褒めてくれよ?」
    「え、何が?」
    「あたしが事前にこうなると見越して、『外泊届』を出してたこと」
    「ふふ、偉い偉い」
    「はぁ…なんでいつもこうなるかな」
    「でもさ、嫌じゃないでしょ?」
    「嫌じゃねぇけどさ」

    エースがジャージの裾をたくし上げて裸足になると、躊躇わずに海に入ってく。膝下まで浸かったところで、こちらに振り向いた。アタシも真似して靴を脱ぎ、裾を上げ、エースの視線に気がついて歩を進める前に顔を上げる。

    「シービー。手出して」
    「エスコートしてくれるの?」
    「ああ。そんなとこだな」
    「ふぅん。いいね」

    かっこいいくせに華奢な手を取って、熱い砂浜から波に誘われ入水する。海水は暑い日にはもってこいの、丁度いい冷たさで心地良かった。バシャバシャちゃぷちゃぷという水の音が楽しくて、思わず足先で遊んでしまう。水底に沈む砂が重く、ダートの上を走っているかのような不安定感に何故だかドキドキして、次第に踊りたくなった。いつも通りの気まぐれだ。
    だから、思うがままに引かれる手に力を入れた。リードを渡してとお願いするように、綱引きみたいにエースを引っ張った。

    「踊りたいな」
    「あたしも、そんな気分だった」
    「真夏のドロワってとこ?」
    「海で、しかもジャージだぞ」

    吹き出すように笑ったエースは、まるで向日葵のようで眩しい。アタシもつられて笑う。確かにジャージよりも制服だったらまだ良かったのにと少し思うところではあるが、これもこれである意味、アタシたちらしいドレスコードじゃないか。

    「言ったは良いものの、リードの仕方が分かんねぇな」
    「お互いドロワに参加してないもんね」
    「時期が時期だったから、機会があれば来年だな」
    「来年か。じゃあその時は…ん?」

    言いかけたセリフに、突然人差し指で制止され黙ると、エースがニヤリと笑った。リズムを取っていた動きを止め、アタシの左手の甲を引き寄せるとおでこをくっつける。キザな行動をしているくせに、慣れていないことがバレバレのぎこちない動きが正直面白かったけど、そんなエースが顔を上げて言う。

    「来年はあたしのデートになってくれるか。シービー」
    「おお!かっこいいー!」
    「おい、茶化すなよ」
    「あはは、ごめんごめん」

    やれやれとエースは溜息をつく。海だからか、駄菓子屋にいた頃よりも風が強く吹いていて、艶黒のポニーテールが激しく揺れた。アタシの髪も鬱陶しいくらいに揺れる。髪ゴムあったっけな、なんてそんなことを考えていると、エースは掴んでいた手を離した。そうしてそのまま、背を向けて少しだけ水深の深い方へ足を踏み入れる。掴むのを忘れているせいで、艶のあるエースの黒い尾がびしょ濡れだった。

    「来年か…」
    「エース?」
    「いや、何でもねぇよ」

    くるっと振り返ったエースの表情は、満面の笑みとはいかない、微妙な笑顔を貼り付けていた。寂しいや悲しいとは少し違う感じで、アタシを見つめて、そして暫くして逸らした。
    よく分からないが、アタシはソレがちょっと気に食わなかった。

    「んー…来年、エースはアタシのデートになるよ」
    「…えっ」
    「遮ったのはキミでしょう?」
    「いや、そーだけど…。シービーは約束しない主義だろ?」
    「まあね」
    「だから、来年改めて」
    「でも、今のアタシはキミがいい」
    「ぐっ…ずりぃよな、そういうとこ」

    エースは何かを諦めたように、さっきよりは少し晴れやかに笑った。アタシはまたもやエースを追いかけて、同じように尾を濡らし、そしてエースがしたように手を差し伸べる。エースが不思議そうな顔をしながらもアタシの手を握ったので、こちらに思いっきり引き寄せた。その反動で一際大きい水音が足元で聞こえた。

    「っ、あぶねーな!シービー!」
    「あはは!」
    「コケるとこだったぜ…」
    「ふふ、ねぇ」
    「なに…」

    空いた手でエースの頬を触り、そのまま勢いでエースに口付けを送る。キスしている間は、まるで時間が止まったかのようだった。何をされたか理解したであろうエースの体温が上がるのを感じたアタシはそっと唇を離すと、エースは見たこともないくらい顔を赤に染めていた。繋がれたままの手にも力が入る。
    身長が変わらないアタシたちは、そのまま暫く見つめあった。静かな波の音が悠久の時を過ごしている錯覚を起こして、空気を読んでいるのか風も止んでいる。
    そんな沈黙を破ったのはエースだった。

    「何で…お前、」
    「したかったから?」
    「それで、キスするやつがいるかよ…」
    「そう?嫌だった?」

    アタシは、これにエースが弱いことを知っている。だから、こてんと首を傾げてエースを見つめた。エースは分かりやすく動揺して、何かを言おうとしてやめるのを三回くらい繰り返した。まるで餌を強請る金魚みたいなんて思う。

    「…嫌に見えたのか?」
    「えー…?なにそれ、可愛いね。エース」
    「うるせぇな。お前の方が可愛いから」

    照れ隠しで真っ赤のままそんなこと言うエースは、かっこいいし可愛いと感じた。キスはしたいなと思ったからしたのは本当だ。だけど、アタシだって誰にでもキスをしたいと思う訳では無い。"エースだから"キスがしたいと思ったのだ。

    「じゃあ、踊ろっか。アタシの"デート"さん?」
    「ああ…!」

    手を引くのを合図に風が吹き始める。
    自然の音が、アタシたちの課題曲だと主張するかのようにザワザワとする。
    エースの手を引っ張って引き寄せれば、エースは負けじとアタシを引っ張ってくれた。どちらがリードかなんて関係ない。気分に任せて、けれどびっくりするほど息ピッタリにステップを踏んだ。
    蒼い海のような双眼がアタシを捉え、挑発するように笑う。アタシは何だか愛おしく感じて、二度目のキスを送った。今度はチークキスだったけれど、エースはやっぱりピュアのようだ。お前はキス魔か!なんて、面白いこと言ってる。アタシは、呑気に楽しくケラケラと笑った。いや、笑っていた。

    「随分と余裕そうだな」

    そんな一言と共に、あのカツラギエースから倍なんじゃないかってくらいの仕返しをされる時までは。
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