「おかえりなさいませ我が君。無事のご帰還、歓喜に打ち震えております」
そうお決まりの台詞をもってカイムがアジトで出迎えてくれるのを受けて、ソロモンは張り詰めていた糸が切れたかのように思わず倒れ込んでしまった。カイムが自分を静かに受け止めてくれたのを感じてから、あ、しまったなと後悔した。今回の遠征は非常に長く困難だったこともありかなり疲弊していて、でもこんなところで動けなくなるなんて情けないし皆にも迷惑がかかるからという思いでなんとか意識を保って自分の力で歩いていたというのに。最後の最後でカイムの顔を見たら力が抜けてしまった。優しく抱きとめてくれたカイムはソロモンよりもずっと背が高くて体格も良い。しっかりと背中に回してくれた腕の筋肉はしなやかで、決して太いわけではないのにソロモンを支えてもビクともしない。顔を埋める形になってしまった胸は非常に広くてしっかりと胸板が厚いのを感じる。意識して吸い込んだわけではないのに、ほんの少しの蝋燭が焼けた匂いとモーリュの花の香りが鼻腔をくすぐり、ああ、カイムの香りだと思って場違いにも胸が締め付けられた。皆に示しがつかない、立たなきゃ、という思いとは裏腹に、まるで毒でも受けたかのように身体は動かなかった。トドメのように「我が君」と耳元で囁かれたものだから、その甘い毒は痺れとともに全身に回ってしまった。
「アンタ……」
ぼんやりとした意識のなかで同行していたウェパルの声が耳に入ってくる。
「薄々勘づいてはいたけど。ここにコイツの過激派達がいないことに感謝しなさいよ」
「お心遣い痛み入ります」
カイムがなるべく動きを抑えて話してくれるのが伝わってくる。
「皆様方はきっと我が君に配慮して口外せずにいてくださることでしょうから」
「チッ、あんまりコイツを甘やかすんじゃねぇぞ」
ああ、ブネにも気を遣わせてしまったな、ここにいるメンバーがいつものメンバーでよかった、そんなことを考えながら、カイムがマントでぐるりと自分を包んだのを最後にソロモンは意識を手放した。