塔矢の娘と『塔矢の娘と』
「わたしはねぇ、囲碁の神様が大嫌いだから。」
今年もプロ試験を受ける気はないのかと夕飯どきに何気なく聞いた所、もちろん、と言った後に続いた娘の返答がこれだった。
オレは少し固まって「…そうか。」と返した後、いつも「誰にでも優しい」と評されがちな娘の口から何の抵抗もなしにするりと出た「大嫌い」の衝撃からなかなか立ち直れなかった。
『塔矢の娘と』
「囲碁の神様…?」
塔矢の碁会所。
最近顔を合わせる度に聞かれる「今年こそひかりちゃんはプロ試験を受けそうか」の返答に先日のやり取りをあわせて伝えると、塔矢の娘は顔を思い切り歪めて「誰」と呟いた。
「何がどうしていきなり神様の話になるんです。」
「わからねーよ。オレもいきなり何の話だと面食らって」
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