耳に残るは君の声 扉が開く音さえ、かき消してしまうような吹雪の夜。
「オルシュファン!」
そう声を掛けられて私が顔を上げると、お前は決まって頭に積もった雪を払いながら、こちらを見て微笑んでいた。私がそれに『おかえり』と返すと、お前はとびきり嬉しそうな笑顔を浮かべながら、旅での出来事を話し始めるのだ。
そんなお前の楽しそうに話す声が、私は大好きだった。何気ないようで特別な毎日を、私は愛していた。
しかしこの先お前と話すことは、もう叶わないのだろう。つい今しがた、私は最後の一言を吐き出し終えたところだった。
霞んでいく視界の真ん中に、お前が瞳に涙を溜めながら、必死に笑っている様子が写っている。何かきっかけがあれば、すぐにでも崩れてしまいそうな、あまりにも脆い笑顔だった。それは普段の笑顔からはかけ離れたものだったが、最期に友の無事を確認できたことは、私にとって唯一の救いとなった。
1956