「色男はつらいねえ」
背後からからかい混じりの声がした。振り向かなくても分かる。こんな物言いで話しかけてくる人物など一人しかいない。
「最高評議会メンバーのご息女じゃないか。この間は大学教授のご子息だったな。入れ替わり立ち替わり、モテる男は大変だ」
「ばかばかしい」
声の主を見ずに吐き捨てると、背後でバルトフェルドはくっくと笑った。
「恋だの愛だの好きだの嫌いだの、下らない」
「言うねえ」
「結局は婚姻統制に従わなければいけないのに定められた相手以外に時間を費やすなど、全くもって時間の無駄だ」
あなたが好き、恋人になりたい。好きになってくれなくてもいいから傍に置いて欲しい。
向けられる同じような言葉の数々に辟易している。
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