西洋文化的世界パロ-図書館柔らかい絨毯が足音を消し、
数ある本たちが、世界の音を吸収する
人の気配はあるが私語は聞こえずただ時だけがそこに流れていた。
国立図書館─現在この国に置いて最大の蔵書数を誇り、大理石と木で作られた重厚な建物は全国民に開かれ、老若男女、身分関係なく立ち寄れる場所である。
図書館の奥、人がほとんど近寄らない専門書が納められた書棚。そこに据えられた大型の机と椅子。大版の書物に合わせて作られた机は大きく悠々としている。
ガノンドロフはその場所が好きだった。
作法だの、統治だの、婚姻だとうるさい使用人たちのいる屋敷を抜け出し、ひとりのんびりと専門書を眺めている。
窓から差し込む光は淡く室内を照らす。
いつものごとくお気に入りの場所で専門書を広げていると目の端を何かが横切った。
誰か居るのか?
人気のない場所ゆえ誰かがいること自体、本当に珍しい。
変わったやつもいるものだ、と再び読みかけの専門誌に目線をもどす。
と「んー!」と人の声。
やはり誰か居る。
「やっぱり取れないかぁ...」
ぼそりと呟く声を耳が拾う。
気まぐれに、どんな奴か気になり声の方へ足を向けた。
金色のクセのある頭部が巨大な本棚と格闘していた。
プルプルと震えながら背伸びし、上段に置かれた本の背を一生懸命指先で捉えようとしている。運良く指先が背の端に引っかかり、引っ張り出すも、みっちり詰まった隣の書籍までも引き出され、書籍がぐらりと傾く。
ー危ないっ
そう思った時には既に体が動いていた。
落ちそうになる本を支える。
「あ、、、すみません。」
胸あたりから聞こえる声。
小さい体に金髪。青い瞳。
「いや、こちらこそ突然にすまない。」
驚かして申し訳ないと謝りながら、ついでに取ろうとしていただろう書籍を取り出し手渡す。そこには専門用語の羅列。
「ありがとうございます。」
やわらかな笑顔を向けられる。しかしその若さと雰囲気にそぐわない書籍の題名。
「読むのか?」
「はい、この著者のわかりやすい解説が好きで、
特にこのことについての解説がーーー。」
雄弁に話す彼を上から下まで観察する。
洗い晒しの金の髪、白い肌。一般市民の間でよく着られる服装。
観察しているとリンゴーンと閉館時間を告げる鐘。
「え!うそ!!あ、あの!手伝ってくださいませんか?」
お願いしますと頭を下げる姿が可愛くその願いを聞き入れた。
高い場所の書籍を数冊取り出してやる。
書籍をその腕に抱え、図書館出口。
「今日はありがとうございました。」
ぺこりと頭を下げられる。
「気にするな。」
「あのまた会えますか?」
その問いに思案する。
「明日も今日と同じ時刻、同じ場所に居る。」
そう告げると嬉しそうな笑顔。
「本当にありがとうございました。明日も来ます。」元気に答え再び礼をされ、その後パタパタと小走りに街中へと消えて行く背中を見送る。青い瞳と金の髪、明るい笑顔が脳裏に焼き付いた。