煉獄家のおじ上ꕤ寿郎は、自分の家が大嫌いだった。
夕飯を済ませると、お腹の大きな母は、上座に坐る父にゆっくりとお辞儀をした。
「では、今夜も行って参ります」
「うん、よろしく頼む」
母が部屋を出て行くのを、ꕤ寿郎は黙って睨んでいた。
今夜、庭で焚き火をする──観篝(かんかがり)という、煉獄家の古くからのしきたりである。
子供を授かった煉獄家の嫁は、お腹に赤ちゃんがいる間は、7日おきに2時間ほど大篝火を見る。
そうすることで、煉獄家の特徴的な焔色の髪と瞳を持った男子が生まれるのだ。
(余計なことを……)
ꕤ寿郎は、舌打ちしたい気持ちだった。
この父や祖父と揃いの髪色が、何よりも嫌いだったのだ。
煉獄家は、代々教師を務める家系。
江戸の時分には、お殿様にも教養を授けた立派な家らしい。
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