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    9bambam18

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    9bambam18

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    8月ホー常WEBオンリーで出す予定の短編集のサンプルです。全部で18本の短編を収録します。
    サンプルでは季節ものっぽいやつを選んでみました。

    君と日常(サンプル)お花見


    ぴ~ひょろ、ひょろろ。ぴ~。

    「あ~、なんかちょっとへたっぴな子がいるね」
    「鳥のさえずりが聞こえると、春を感じるな」
    「ね。まだ朝早いからちょっと肌寒いけど、春の朝は気持ちがいい」

    夜勤明けの常闇くんと、徹夜明けの俺。早く家に帰って休息をとった方がいいことは互いにわかっていたけれど、今日は、このあと一日フリー。それならばパン屋さんでパンとコーヒーを買って花見でもして行こうと常闇くんと黒影くんに声をかけて、桜並木を三人で散歩する。まだ朝が早いからかジョギングをしたり犬の散歩をしたりする人くらいしかおらず、のんびりと空を眺められて快適だ。

    「満開だね」
    「ああ。この時期は、パトロールしていると鮮やかさに思わず見とれてしまう」
    「夏の新緑も、秋の紅葉も、冬のイルミネーションも奇麗なんだけどさ、やっぱり春が一番色とりどりで奇麗だなぁって思っちゃうな」

    昔は空の上からしか桜は見ていなかったけれど、こうやって下から見上げるのも良い。きっと、それは大好きな人たちと並んで一緒に見ているからっていうのもあるけれど。

    「あ、見て。あの黒柴。お尻に桜の花ついてる」
    「カワイイナ!」
    「黒いから花びらが映えてるね」

    自分たちを追い越していった黒い柴犬。その体には薄ピンクの花びらが何枚かついていて、花ごと落ちてきたのを飼い主がつけたのか、お尻に桜の花が一つ咲いていた。その愛らしさに常闇くんも思わず破顔している。かわいい。俺はというと、黒柴のかわいさよりも常闇くんのかわいさにくぎ付けだ。本人は気づいていないだろうけど、常闇くんの頭にも二枚ほど花びらがくっついている。家に帰るまでに何枚くっつくかな。
    そこそこ桜並木を満喫したところでベンチを見つけたので、買ったパンとコーヒーが冷たくならないうちにと、座って朝食を摂ることにした。俺はメープルシロップがたっぷりしみ込んだフレンチトーストと、チキンと野菜が挟まったサンドウィッチ。常闇くんはお決まりのアップルパイと、ベーコンとチーズと枝豆のなんか美味しそうなやつ。

    「なんか……こうやってのんびりできるのっていいね。今度の休み、ピクニックとかどう?」
    「それはいい。桜の季節が終わっても、次々と花の見ごろは来るからな」
    「なんだっけ、一面に咲く青いやつ」
    「ネモフィラ」
    「そう、それ。あとはあれだ、紫とかの……つつじ!菜の花とかも一面に咲くと奇麗だよね」

    ヒーローをやっていたときは地面をゆっくり歩くことも、見ることもなかった。子供のときなんて回りの色に目を向ける余裕なんてなかったし。その辺に咲いている花がなんて名前かも知らないし、そもそも知る必要もないと思っていた。常闇くんとゆっくり地面に足着けて歩くようになってから、こんな色鮮やかな世界があったんだなぁって知った。空はもちろん良いけど、地面だって案外良いものだ。

    「ホークス」
    「うん?」
    「ピクニック、楽しみだな」
    「うん。そうだね。楽しみ」
    「弁当箱を新調しよう。大きめの」
    「形から入っていい?あれも買おうよ。バスケットって言うの?かごみたいなやつ」
    「素敵な案だ」

    きっと、満開の桜がなくても、満開のネモフィラがなくても、満開のつつじがなくても、君たちと一緒ならそれだけで楽しい。でも、一緒に「奇麗だね」って感想を共有できたら、もっと楽しい。ピクニックに持っていくお弁当を、肩を並べてキッチンで用意したら、もっともっと楽しいに違いない。

    「そろそろ帰ろうか」
    「そうだな」

    コーヒーも飲み終わり、ちらほらと登校する学生や出勤する会社員が増えてきたのでベンチから立つ。今日一日はどう過ごそうか。天気が良いから溜まった洗濯をして、軽く昼寝をして。起きたら買い物に行って、夜は夜桜を見に行くのもいいかも。

    ぴ~ひょろ、ぴぃぴぃ。

    「あはは、さっきと同じ子かな?こんなんじゃ意中の女の子を誘うことはできないよ」
    「……あなたなら、どうやって意中の人を誘うんだ?」

    思わずびっくりして常闇くんを見る。ヒーロースーツとチョーカーの隙間からほんの少しだけ見える朱色は、日差しが強くなって温かくなってきたからではないはず。
    かわいい。自分で言って照れちゃってるの、本当にかわいい。きっと、ばれてないとでも思っているんだろう。よし、今日の予定は一日イチャイチャする、これに変更。
    マントの下に隠れている右手に、自分の左手を絡ませる。そのまま絡ませた手に頬を摺り寄せた。本当はキスしたかったけれど、さっきパンを食べちゃって口が汚れているから、これで我慢。

    「俺はね、こうやって誘うかな」




    ひまわり


    まず思い浮かんだ感想は「ひまわりってこんなでっかくなるんだなぁ」だ。
    出張先に有名なひまわり畑があるので散歩でもどうかと、護衛をしている常闇くんからお誘いがあった。てなわけで、暑苦しいスーツを脱いでラフな格好でお散歩デート。

    「ひまわりってでっかいんだね」
    「この品種はひまわりの中でも大きいらしいが……圧巻だな」

    常闇くんどころか、日本人平均の俺よりも高く伸びたひまわりを、少し遠巻きに二人して見上げる。なんか……こう、ジーニストさんを見上げているときを思い出す。あの人の髪の毛も黄色(正確には金色)だし。

    「これでは天然の迷路だな」
    「小さい子はすぐ見失っちゃうね。危ないな」
    「あなたもひまわりに攫われないように」
    「あはは。俺ってそんなキャラ?」
    「自分の今までの言動をよくよく思い出していただきたい」

    じと、と睨みつけてくる常闇くんに言われたとおり、自分の言動を思い起こす。最近は急に消えるようなことしてないんだけどな。ちゃんと出張のときは常闇くんたちについてきてもらっているし、仕事だって、プライベートだって頼っている。まぁ、ちょっと、ヒーロー時代のあれこれは言い訳できないけれど。背中を焼かれたときに、すぐに病院から退院して連絡無視したことを未だに根に持ってるんだよなぁ。そりゃそっか。

    「不安なら手つなぐ?暑くて手汗べちゃべちゃだけど」
    「さすがにそこまでは」
    「そう?あっ」

    びゅんと気持ちのいい風が、俺の帽子を攫って行った。そのまま背の高いひまわりの中に飛んで行ってしまったので、常闇くんに一声かけてひまわり畑に足を踏み入れる。

    「んー?あ、あったあった」

    太い茎と大きな葉っぱをかき分けて、ようやく落ちた帽子を見つける。幸い土はついておらず、俺の大事なツクヨミモデルの帽子は無事だ。つばの裏地が黄色で格好いいんだよ。発売当時、オンラインは十分で売り切れ。現在再販中。

    「ホークス、ホークス?」

    ひまわり畑の外から、常闇くんの声が聞こえた。俺がなかなか出てこないからこちらまで来たのかな。
    振り返るとひまわりの茎の間から、心配そうにきょろきょろとあたりを見回す常闇くんの姿。真っ青な空と、黄色と緑の中で、常闇くんの黒い頭はよく映える。月夜の常闇くんもいいけれど、こういう太陽の下の常闇くんもやっぱりいいなぁ。

    「ここだよ、ここ。ごめん、心配した?」
    「本当にひまわりに攫われたと……」
    「焦ってたね。そんなことあるわけないじゃん」

    常闇くんたちを置いて攫われるわけないじゃん。もう二度と君たちと離れるつもりはないから、攫われるならどうにかこうにか二人とも一緒に連れて行く。まぁ、そんなこと君たちがさせるわけないだろうけど。

    「大丈夫大丈夫、ちゃんと戻って来たでしょ……なに、くすぐったい」
    「ホークスはひまわりのような人だから、あなたに魅了されたひまわりがあなたを取り込んで自分たちの一員にしようとしているのかと……そして、ひまわりがホークスに擬態して……」
    「なにそれ」

    人目も気にせずぺとぺとと顔に触れてくる常闇くんは、たぶん真剣だ。世にも奇妙な感じの話にしないで欲しい。

    「急にホラーチックにしないでよ……っていうか、俺ひまわりっぽい?」
    「ひまわりがよく似合うと……ひまわりのような人だと思っていたが……不快だったか」

    不快だとは思わない。でも、花の代表格であるひまわりみたいな人間だなんて、あまりにも買いかぶりすぎだ。それに、ひまわりが似合うのは常闇くんだってそうだ。花の色は嘴や黒影くんの瞳の色だし。

    「ホークスの笑顔はまるで大輪のひまわりのように華やかだ。それに……あなたは本当に青空が似合う。これほどまでに青空が似合うのは、ひまわりかあなたくらいだろう」
    「それは……ちょっと言い過ぎじゃない?」
    「いや、事実だ」

    そこまで力説するなら、俺はひまわりっぽい人間ってことでいいかもしれない。ほら、ひまわりの花言葉ってさ、まるで俺の気持ちを表しているみたいだし。

    「常闇くんさ、ひまわりの花言葉知ってる?」
    「知らないな。不勉強で申し訳ない」
    「そうなの?知ってて言ってるんだと思った。ひまわりって花言葉たくさんあるんだけど、その中に俺の気持ちにぴったりな言葉があるからさ」
    「ほぅ?」

    すかさずスマホを取り出した常闇くんが画面を見やすいように、体で日陰を作る。すさすさと文字を打ち込み、お目当ての記事を見つけた常闇くんは、はぁ、とため息を吐いてスマホをポケットにしまった。かぁわい。

    「ねぇ、首が真っ赤だよ。熱中症には気をつけなきゃ」
    「わかって言っているだろう……」




    雨宿り


    ぴゅうと吹く北風が冷たい。秋から冬に差し掛かる季節。地球の気まぐれで急に夏みたいに戻ったり、冬を先取りしたりと落ち着きのない気候のせいで、服装には困ってしまう。今日は家を出るときは暖かかったから薄めのジャケットを着てきたというのに。
    寒いな。今日は常闇くんは迎えに来ることができないはずだから、タクシーで帰るか。今更社用車を用意してもらうのも悪いし。本当は、常闇くんに抱きかかえられて、常闇くんの体温を感じながら帰りたい気温の夜だけど、仕方ない。スマホを取り出してタクシーの呼び出しアプリを開くと、目の前に静かに何かが降り立った。何かなんて、見なくたってわかる。

    「ツクヨミくん、仕事は?」
    「チームアップは他のヒーローたちのおかげで早く終わった。あなたが薄着で出社したことを思い出し……迎えにと」
    「そう。常闇くん、黒影くん、お疲れ様」
    「……迷惑だっただろうか」

    スマホから目を離さない俺に、常闇くんは不安そうな声を出す。いや、だってさ、迎えに来れないはずだけど、迎えに来てくれたら嬉しいなって思っていたら、来ちゃうんだもん。嬉しくてにやけた口元を見られないようにこっちも必死なんだって。

    「ううん、すごく嬉しい。常闇くんたちと一緒に帰れたらいいなって思っていたから」
    「そうか」

    スマホをしまって、口元をばれない程度に軽くマッサージをしてから顔を上げると、俺以上に嬉しそうな常闇くんの顔。早く帰ろうと差し出す手に俺の手を重ねれば、ぎゅうと握られた。なに、常闇くんも俺と帰れるのがそんなに嬉しいの。

    「あ、雨」
    「そんな予報はなかったが……」
    「んー、雨雲自体は小さそうだから、すぐに止むよ」

    握られた手をやんわり引かれたので常闇くんに体を委ねようとすると、ぱらぱらと冷たい雨が顔を濡らした。このまま帰っても大丈夫だとは思うけど、雨雲レーダーを見る限り、すぐに止みそうだから待っている方がいいかもしれない。

    「止むまで待とうか」
    「ああ」
    「こっち」

    少しだけ戻って屋根のある場所へ。もう少し歩けばビルの中に入れるけれど、せっかく繋がれた手が離されてしまうのは寂しいから。

    「ホークス、寒クナイ?」
    「正直言うと、結構寒い。もうジャケットも冬のやつじゃなきゃダメだね」
    「……今なら、先着一名、こちらに案内可能だが」

    ぺら。常闇くんのマントがめくられる。いいの?ここ外だよ?空の上じゃないんだよ。

    「じゃあ、お邪魔しちゃおうかな」

    めくられたマントが体を覆う。マントだけじゃなくて、たくましい腕までサービスしてくれちゃってさ。しかも黒影くんまで上から抱きしめてくれちゃって。大丈夫?サービスのし過ぎで赤字にならない?

    「ちなみに閉店はいつ?」
    「雨が止むまでだ」

    しとしと。雨の音が弱まっていく。向こうの空はもう月の明るさに照らされているから、あと五分もすれば完全に止むだろう。
    俺の読み通り、数分後には雨は止んだ。それでも常闇くんのマントから追い出される気配はない。

    「常闇くん」
    「まだ降っている」

    トン、と腕を叩くと体に回った腕の力は余計に強くなった。今日は帰って寝るだけだったから、もう少し「雨宿り」していったって問題はない。

    「そうだね、ゲリラ豪雨だ」
    「ふ……止むのはもっと後だろうな」
    「じゃあ、それまではここで雨宿りしていこうか」
    「ああ、賛成だ」

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