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    OKOMEnoKABE

    @OKOMEnoKABE

    お米やで

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    OKOMEnoKABE

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    7月のオンリーイベントにてAnさんへ寄稿したお米のお話のサンプルです🧚🏻‍♀️
    冒頭、中盤部分を抜粋しています✍🏻
    カクテル言葉で口説く🌙に、🐈は抗えるのか…🤔
    実際はこれに+1万字弱です。後半はR18です。

    サンプル煌びやかなネオンの看板が乱立し、猥雑な光をまき散らしている。赤や青、紫といった原色の光は路面に溶けて、それらは夜の闇を塗りつぶすために脈動する。路地の奥からはガヤガヤと酒に酔った笑い声や誰かを呼び止める客引きの声が絶え間なく響き、行き交う人々の足音と入り混じって波のように押し寄せていた。
    煙草の煙や強い香水の香り、焼けた油の匂いが入り乱れ、夜気はどこか甘く濁っている。幾重にも重なる喧騒の渦の中で、誰もが誰かになりきるように、あるいは自らを忘れるように―この街に身を委ねるのだろう。
    雑踏の中でやや千鳥足になりながら前を歩く筋肉隆々な部下を心配しつつも、瑞月は疑いの色を隠さずに問いかけた。

    「おい、李白。こんな所に本当にいい店があるのか?」
    「ご安心を!この李白、部長の期待に必ずやお答え致しますよ」
    「特に期待はしていないのだが…」

    むしろ、もう帰りたい。瑞月は濡れた舗道で乱反射するネオンを踏みしめながら、喧騒に紛れることなく響く自分の声に改めてこの場違いな状況を痛感する。すれ違う人々の視線は遠慮がなく、品定めをするようにジロジロと、こちらをなめるように追う。普段から人の視線には慣れているが、この場所にこの時間だ。それはあまりにも剥き出しで、容赦がない。
    前々から誘われては断る、を繰り返していたが、もしこんな夜の街に連れてこられると知っていれば、やはり頑なに断り続けるべきだった。しかし、今夜ばかりは、会社としても大きなプロジェクトを無事成功に収めた部下である李白を上司として労うべきなのだ。

    「高いけど、いい酒を出してくれますよ」

    振り向いた李白は2軒目への期待を込めたまなざしを瑞月へ向ける。この夜にふさわしい一杯を求めるその瞳の輝きを見てしまえば、ため息混じりの抵抗など意味をなさない。瑞月は肩を竦め、視線を逸らした。こう言ってやる以外に、選択肢はない。

    「気にせず飲め」
    「よっ。部長!最高の上司ー!」
    「調子のいい奴め」
    「いやー、部長なら絶対に気に入りますよ」

    ごまをする李白にやれやれと首を振っていると、いつの間にか辺りの喧騒は遠のき、静寂が瑞月の身を包み込んでいた。賑やかな大通りから外れたことに気がついたのは、耳がふと楽になったからだ。李白は何も気にすることなく、ずんずんと真っ暗な路地裏へと歩を進めていく。周囲を見渡すとネオンは残光すら届かず、湿り気を帯びた闇が道を覆い尽くしていた。また、壁際に積まれた木箱や錆びた看板が瑞月の目に飛び込んでくるが、人影はなく、不気味なほど静かである。

    「おい……」

    思わず声をかけようとした瞬間に、李白はふいに足を止めた。瑞月も足を緩め、暗闇の奥に浮かぶ一軒の店を見上げる。ひっそりと佇むその建物は二階建てで、遠目には古びた民家のようにも見える。しかし、近づくにつれ、ただの住宅ではないことがわかってきた。
    李白の横へ並ぼうと慎重に足を進め、視界に入るのは店の内側を一切覗かせない重厚な扉。表面は鈍く光る金属で覆われ、そこに掛けられたプレートには“OPEN”とある。年季の入ったその文字は、何年も前から変わらずそこにあり続けたことを物語っていた。だが、やはり店内の様子はまるで掴めない。ただのバーなのか、それとも別の何かなのか。背筋を撫でる微かなざわめきを覚えた。

    「……店名もないようだが、ここは本当にバーなのか? 妙な店なら俺は帰るぞ」

    訝しみながら呟き、半ば踵を返しかける。しかし、その動きを読んでいたかのように李白が素早く腕を掴んだ。

    「まぁまぁ」

    李白は薄暗い路地裏の空気を軽やかに振り払うかのような態度で場違いなほど朗らかに笑い、白い歯を見せる。そのまま強引に扉を押し開き、瑞月の腕を引いて中へと誘う。

    「あ、おい、李白……!」

    抵抗する間もなく瑞月の身体はすっと店の中へ引き込まれ、カランカラン、と来客を知らせる鈴の音がやけに軽い響きを店内に落とす。その音に続いたのは、客を歓迎しているとは思えないどこか素っ気ない淡々とした娘の声だった。

    「いらっしゃいませ…あぁ、…李白さん」

    それが耳に届き、静謐な空気に瑞月は目を細める。仄暗い照明が天井から柔らかに落ち、瑠璃色の光が磨き上げられたカウンターの木目を静かに浮かび上がらせている。壁には余計な装飾はなく、整然と並べられたボトルたちが棚の奥から静かにこちらを見つめているようだった。奥に流れるのは控えめなジャズ。ピアノとベースが低く囁くように響き、氷がグラスに触れる音とともに空間に溶け合っていく。ボックス席では店の品格と同等の数人の客が腰を落ち着けていたが、皆それぞれの世界に浸っており、誰も無駄に声を荒げたりはしない。微かなアルコールの香りに鼻腔をくすぐられ、瑞月は妙な違和感を抱えつつもようやっと胸を撫で下ろした。

    「おっ、カウンター空いてるな!嬢ちゃん、いいか?」
    「ご連絡をいただいておりましたので、もちろん」

    広い店内にも関わらず、カウンターはわずか三席。バーとしてはあまりにも少ない座席数だ。瑞月は李白の後について店内を進みながら、自然と疑問を抱く。李白が気軽に呼ぶ“嬢ちゃん”へちらりと視線を向けると、娘はカウンターの内側でグラスを拭いている。顔のパーツは全体的に整っているものの、それを覆い隠すかのように、頬から鼻筋にかけて広がるそばかすが印象的だった。
    瑞月の視線に気がついたのか、娘はふと手を止め、じっとこちらを一瞥する。まるで猫のような瞳だ。初対面だろうが何だろうが、基本的に人は皆瑞月の顔を見るとまず頬を赤らめる。だが、娘は何かを見透かしたようにふっと唇の端をわずかに持ち上げた。意味ありげな、微かな笑み。その一瞬の表情に、言いようのない引っかかりを覚えた。座高の高い椅子に腰掛けると、娘から声がかかった。娘は名刺を差し出すと、無愛想な顔にやや笑みを足して話し始めた。

    「初めまして。私は猫猫と申します。李白さんの上司の方とお聞きしております。差し支えなければお名前を聞いてもよろしいですか」
    「…初めまして。李白がいつもお世話になっているようですね。私は華瑞月と申します。名刺ありがたく頂戴致します」

    猫猫は渡された名刺に目を細めると、またしてもふっと笑った。先ほどからどうにも含みのある笑みばかりを浮かべるこの娘に、瑞月は得意の営業スマイルを保つのに苦労していた。崩れそうになる口元を何とか引き締めながらそれとなく表情を探るが、何を考えているのか全く読めない。
    さらに、それだけではない。過去に色々と苦労をしながらも、今では武器にもなっている瑞月の“麗しい”と評される顔に、この娘は何の反応も見せないのだ。驚きや興味だけではなく、警戒に欲情―そういった類の視線には慣れている。しかし、猫猫の目にはただ淡々とした冷静さと、どこか無関心な色しか浮かんでいなかった。こんなことは、初めてだった。

    「嬢ちゃん。この御方が俺がよく話している部長だ。言った通りだろ?」
    「えぇ、確かに。“あの店”で嬢が取り合うでしょうね」
    話が見えない瑞月は李白と猫猫を交互に見る。
    「“あの店”とは……どのお店のことでしょうか?」
    「えぇ。……李白さん、華さんにお話されていないのですか?」
    瑞月にじろりと視線を向けられた李白は、気まずそうに頭をかいた。
    「いやー、話したら来ないかと思って。“あの店”のことは抜きにしてもきっと気に入ると思ったんだよ。嬢ちゃんの作る酒は美味いからよー」
    「…李白、何を隠しているんだ」
    よそ行きの表情は崩さずに、だが凄みを含めた瑞月に李白は冷や汗をかき始めた。観念した李白が口を開いたその時、鈴の音が鳴り響き再び来客を知らせる。猫猫は出入口に目を向けて客を確認すると、そこへ一度だけうなずいた。

    「すみません、少し失礼します。すぐに戻りますのでドリンクを決めていてください」

    そう言って場を離れた猫猫を、瑞月は思わず目で追った。猫猫は店の入り口へ向かい、ちょうど入ってきたばかりの女性客へと近づくと、何やら耳打ちをする。その仕草は親しげというよりは、ごく手慣れたものだった。そして、女性客はカウンターから少し離れたボックス席へと案内された。その席にはすでに一人の男性客が座っていたが、猫猫がそっと声をかけるとすぐに立ち上がり、二言三言、三人で短く言葉を交わした後、男性は迷うことなく女性客を伴い静かに店を後にする。それが決まりごとであるかのように、淡々と。
    瑞月はカウンターに肘をついたまま、その一連の流れをじっと見つめていた。李白へ向き直し、訝しげに尋ねる。

    「…李白、この店は一体どういう店なんだ」
    「あ〜…、とにかく、怪しい店ではありません。利用目的が人によって変わります」
    「酒を飲む以外に一体どんな利用目的がある」



    初めの印象は、いけ好かない野郎。だった。いや、正確には「初めは」などという過去形にするほど印象が変わったわけではない。今でも継続中だ。あの取ってつけたような営業スマイルは見ているだけでこちらの顔まで引き攣りそうになる。人に言える立場ではないが、あれはやめた方がいい。どうせ普通にしていたって、嫌でも人は寄ってくるだろうに。
    瑞月はどこまでも隙を見せない。決して失敗は許されないと己に課しているのか、完璧を装っている。その様子が、猫猫はどうにも気にかかった。「また来ます」とにこやかに去って行った瑞月に、あれは社交辞令のそれだと思っていたのだが。
    ―――それが、どうしてこうなったのか。

    「おい、猫猫。聞いているのか?」
    「…あの、瑞月さん。もうお店を閉めたいのですが」
    「おまえなぁ。なんだその顔は。客商売向いてないぞ」

    瑞月はそう言うが、その顔はどこか悦に浸っていた。もはや恍惚と言ってもいい。猫猫がこの男に向けている冷めた視線や素っ気ない態度は何も初めからこうだったわけではない。一応、礼儀をもって接していた。しかし、瑞月は二回目に一人で来店し、さらに三回目、四回目と回数を重ねていくうちに、非常に面倒臭い男だということがわかったのだ。
    探られたら探り返す。猫猫がそうすると、瑞月は「俺のことが気になるのか?」と目を輝かせ、「そうでもないです」と応えると口をギザギザに震わせて少年のような笑みを見せたのだ。どんなツボを押してしまったのか、すっかり気に入られてしまった。

    「あー、すみませんねぇ。今日は本来定休日なので接客する気がないんです」
    「だが入れてくれたのはおまえだろう」

    猫猫が店前の掃き掃除をしていたところ、瑞月は偶然通りかかったと言っていたが、この店は路地裏の奥深くにあり、そもそも偶然通りかかるような場所ではない。定休日だと分かっていても様子を確かめに来る男に、猫猫はもはや恐怖すら感じていた。断っても断っても執拗に、懲りずに飲みに行こうと誘ってくる。無視を決め込みたいが、瑞月は本当にしつこい。
    どうせ飲むなら、店の売上に貢献してもらった方が財布的にも助かる。そう思い、仕方なく店へ招いたのだ。とはいえ、何だか癪なのでここぞとばかりに高い酒を出している。だが、瑞月はまるで気にする様子もなく、グラスを傾けながら飄々とした笑みを浮かべている。たとえどれほど法外な値段を告げられようとこの男なら意に介さないだろう。本当に厄介な客だ。猫猫は心の中で舌打ちをする。

    「もう満足したでしょう。まだ飲む気ですか?飲み過ぎは体に悪いですよ」
    「何を言ってるんだ。おまえも俺もまだ二杯目だろう。ちゃんとおまえの分も支払うから遠慮をせずに飲め」
    「…じゃあ、あと一杯……いただきます」

    普通なら屈辱に感じるはずの態度を楽しんでいる男に、猫猫は呆れて目を細める。この男は、虫けらのような扱いを受けても喜びを感じるとんだマゾ野郎なのだ。美しすぎる容姿のせいで周囲の人間に散々もてはやされ、腫れ物のように扱われてきたのだろう。その反動で性癖が歪んでしまったに違いない。まったく、可哀想な奴だ。口に出せばさらに喜ばせてしまいそうなので、猫猫はぐっと口を引き結ぶ。

    「何を作るんだ?」

    瑞月はグラスを手に取った猫猫へ興味津々に尋ねた。カウンターの中まで入ってきた瑞月を睨みつけるが、他に客はいないので大目に見てやる。猫猫はビールを半分まで注いで、その中へゆっくりとジンジャーエールを流し込んだ。

    「シャンディ・ガフです」
    「ほう。甘い物は苦手なんだろう?おまえにしては珍しいな。どんな意味があるんだ?」

    猫猫は軽く混ぜ合わせながら、ニヤリと口端を上げる。この男なら聞いてくるだろう。そう思ってこのカクテルを選んだのだ。

    「“無駄なこと”です」

    直球に伝えすぎたか。瑞月にじとっとした目で見つめられ、猫猫は慌ててグラスに口をつけた。瑞月は飲んでいたウィスキーを一気に流し込むと、ダンッと音を立ててグラスを置いた。

    「では、俺はブランデー・クラスタを頼む」
    「………勘弁してくださいよ」

    瑞月はニヤニヤと笑う。

    「もしかして、作れないのか?」

    猫猫がムッとした顔になると、瑞月はさらにいやらしい笑みを深めた。この男が何を狙っているのかは分からないが、少なくとも、こちらをからかって楽しんでいることだけは確かだ。猫猫が知らないはずがない。ブランデー・クラスタのカクテル言葉は―“時間よ止まれ”。神に乞うたいほど早くこの時間が過ぎ去ってほしいと願っている今、このチョイスはあまりに腹立たしい。

    「作れますよ。今日はそれで帰ってくださいね」

    猫猫は最低限の礼儀だけを込めてそう告げると、手早くカクテルを作り、コースターの上に置く。
    その瞬間―ぐっと腕を引かれた。
    視界がぐらつく間もなく、整った顔が目の前に迫る。酒のせいか、それともこの男の体質なのか、ひどく体温が高い。猫猫の脳裏に、そんなどうでもいいことがふと浮かぶ。これくらいで動じるほど肝は据わっていないわけではない。瑞月の挑発じみた仕草にも、ただ淡々と冷めた目を向ける。

    「酔いましたか?なら、帰りましょう」
    「…そろそろ逃げ回るのはやめたらどうだ?」

    瑞月の低く抑えた声が鼓膜を震わせた。

    「逃げ回る? 何のお話でしょうか」

    猫猫は表情一つ変えずに返した。だが、瑞月の目は笑っていなかった。

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