サンプル煌びやかなネオンの看板が乱立し、猥雑な光をまき散らしている。赤や青、紫といった原色の光は路面に溶けて、それらは夜の闇を塗りつぶすために脈動する。路地の奥からはガヤガヤと酒に酔った笑い声や誰かを呼び止める客引きの声が絶え間なく響き、行き交う人々の足音と入り混じって波のように押し寄せていた。
煙草の煙や強い香水の香り、焼けた油の匂いが入り乱れ、夜気はどこか甘く濁っている。幾重にも重なる喧騒の渦の中で、誰もが誰かになりきるように、あるいは自らを忘れるように―この街に身を委ねるのだろう。
雑踏の中でやや千鳥足になりながら前を歩く筋肉隆々な部下を心配しつつも、瑞月は疑いの色を隠さずに問いかけた。
「おい、李白。こんな所に本当にいい店があるのか?」
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