消えない声腹が減ったら帰ってくる
そう思って待っていた方が、この事実を受け止めないで済んだかもしれない。
本当か?
今やれることをやっていないと今よりも後悔したはずだ
そう思いながらあの時拾ったモンスターボールの欠片を力いっぱい握る。
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シルバーが居なくなって数日後、最後のシルバーの言動なのか、第六感なのか、いつもなら放置しているはずなのにシルバーを探した。
見つけた時は交戦中で、助太刀をしたが虚しく負けた。
負けただけならどれだけ良かったのか。
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傍らにシルバーのマニューラがいた。
心配そうに血が出ている手に爪を軽く当てる。
「わりぃ、おめぇのボールの破片なのに、また汚しちまった」
悪い癖だな、と自嘲する。
らしくない、と自分に言い聞かせるも、こんな形見のような破片に縋るしかなかった。
なにもかも終わったあとのブルーやクリス、イエローの泣き声、グリーンの別れの言葉、レッドの低い声がアタマから離れない。
1番辛いのは傍らにいるマニューラだと思い、ゴールドは背中を押すように撫でる。
慣れていないのか、力が強すぎたのか、逃げてゴールドの背中によじ登る。
マニューラのモンスターボールは“あの時”破壊されたままで、新しいボールを出すか迷っていたら気づいたら葬式も終わっていた。
きっと我が家なら問題なく受け入れられるだろうとは思うが、マニューラがどうしたいのかと思いしばらく様子を見ている。家が嫌になったら離れるだろう。
「ここは居心地がいいな」
シルバーの声を思い出す。
アイツも猫のようで、家に懐いていたからよく勝手に上がり込んだり、呼び出せば来たりと…
何を考えているんだ、と、自分を叱咤する。
感傷に浸るのでなく今どうすればいいのか考える。
「とりあえず、これ、どうにかすっか」
手のひらに絆創膏を貼りながら、マニューラに着いてこいと指示をする。
いつか捨てる時が来るのだろうか“このガラクタ”は血に濡れてキラキラと夕日の光に照らされていた。
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元々家によく来ていたマニューラは家にすぐ馴染んだ。
寝る時はゴールドの部屋のベッドの隅で寝て、きままに起きて、飯の時間には適当に現れる。
その様子を見るだけでシルバーを思い出すのでその度に頭を搔いて沈む気持ちを紛らわす。
1人になった時には怪我の元になるガラクタを見つめる。
見つめてどうこうなる訳では無いし、あの時の光景が蘇るだけなのにずっと見てしまう。
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マニューラが家に慣れただろう。
母さんもそう言う頃に新しいモンスターボールの用意をしてマニューラと対面する。
「お前、うちにずっと居るか?」
ブルーさんも家族が多い方がいいと言っていたし、マニューラも特に嫌がってもないし、なにより来て数日しか経ってないのにこの居座り様だ。
本当にどこかの誰かさんを思い出す。
モンスターボールを目の前にだし、あとはマニューラが入るだけだ、なのにーー
「あっ!おまっ!!!」
マニューラの鋭い爪がモンスターボールを弾いた。
手に当たらないところを見ると敵対はしていないようだが対峙する。
先に目を逸らしたのはマニューラだった。
そのまま家の外に出てしまい、ゴールドは急いでいつものカバンや帽子を手に追いかける。
別に家に居たくないのは良いが、逃がすとなると後が心配だった。
不思議と早く走る訳でも無く、着いてこいと言うように背中や耳を草むらから見せるので追いかけるのは正解だったと安堵する。
ただ、今捕まえないと、その先はーー
数日前に来た、今も戦った跡が残る、シルバーが亡くなった場所に着いた。
まっすぐマニューラはシルバーが倒れた場所へ向かう。
「マニューラ… 」
声が出なくなっていく。
かすれ気味でなんと言えばいいのかと、どうすればいいのかと様子を見る。
シルバーの倒れた所に鉤爪で地面を掘る姿は、ゴールドにはどうすることもできなかった。
しばらくすると、マニューラがゴールドの下に寄る。
ポケットを汚れた鉤爪でトントンと叩く。
「あぁ、お前、そうだな」
あの時、シルバーが倒れた。
モンスターボールは敵の攻撃なのか、落下の勢いなのか分からないが開閉スイッチと1部が壊れていた。
その破片がシルバーの手に刺さっていてゴールドはなにかの手がかりだと思い込み手に取っていた。
「そのせいでお前のことをよく思い出しちまうよ」
分析したらマニューラのモンスターボールの欠片だったので、なにも手がかりはなかったが、こうして手放せなくいる。
その欠片を出せというのか?
ゴールドはポケットから震える手でマニューラに見せる。
マニューラはただゴールドと欠片をみるだけだった。
「そりゃそうだよな、ポケモンがコレをつかってなんかできるわけねぇよな」
頭をがじがじ掻いていると、その場にいるせいか、あの時のことをよく思い出す。
とても大きなポケモンだった。
シルバーは空から攻撃をしていて、ゴールドは足元から攻撃をしていた。
突然シルバーの動きが鈍くなり、様子を見に行くと上空からシルバーが落ちてきた。
後から続くドンカラスはどうにか着地をしていて、手の中にはマニューラがいるモンスターボールがあった。
抱き起こしてポケモンから離れて様子を見るがシルバーの頭はーーーー
そこまで思い出すとマニューラはゴールドの手をトントンと叩いた。
また手のひらからは血が出ていた
「いってぇ…」
いつまでも戻らない時を考えてバカバカしいと思う反面、どうにかできなかったのだろうかと思う自分がいるのに女々しくて悔しくなる。
そんなゴールドに痺れを切らしたようにマニューラは走り去った。
ゴールドは慌ててマニューラを追いかけた。
「またかよ」
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マニューラは木が倒れているところで止まり、カリカリと引っ掻いている。
何かあるのかと見るが暗くてよく見えない。
下手に重心をかけるのも危険だと判断し離れようかと考えるが、ここまでの長距離を走らされて帰るのもマニューラに申し訳ないと思う。
カバンを後ろに投げて体をグイっと奥まで入れて目を凝らすと、よく見た事のある物があった。
どっと汗が吹き出して、木に下手に振動を与えないようにと体を更に中にいれていき、慎重に取り出してはマニューラに見張るように頼む。
器用なエーたろうもボールから出して、協力を促してなんとか全て取り出すのに成功した。
自分の体で包み込める大きさのポケモンのタマゴが4つほど出てきた。恐らくその先はないかと思うが、念の為ポケモンを総出で木をゆっくりずらし確認する。
確認を終わる頃、ゴールドは泥だらけで、涙が止まらなかった。
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シルバーが落ちてきた。
まだ意識があるように思えた、思いたかったのかもしれない。あの時は必死で細かいところまで覚えてない。
抱き起こした時に聞いたすがるような声。
「ゴールド…ゴールド…たすけ…って」
あの声がずっと離れなかった。ボールを力強くにぎるので何かあるのかと思いマニューラを受け取った。
「大丈夫だっ!オレがなんとかしてやっから!!」
返事はなかった。シルバーの口は開いていないはずなのにずっと名前を呼ぶ声が聞こえていた。
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ゴールドはタマゴを抱きしめて涙をボロボロと流していた。
ぐしゃぐしゃな顔になりながら、あの時の言葉を思い出す。
「おめぇ、バカヤロウ、ヘタなんだよ」
助けを求めていたと思っていた。
ちがった、助けてやれって言おうとしてたんだと、タマゴを割らないように気をつけながら、力いっぱい抱きしめる。
「おめぇも、なんだよ、辛かったのか?それともーー」
マニューラを見るといつの間にかモンスターボールを持っていた。手癖の悪さはあいつそっくりだと、また思い出してしまう。
言葉を聞かずに勝手にモンスターボールに入るところも、よく似ていると笑ってしまった。
ポケモンたちが木を丁寧に並べて、他に卵がないことを確認する。
抱きしめていたタマゴが震え出した。
何度も体験している、タマゴが孵る時だった。
「よぉ、元気に産まれてよかったな」