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    9999_seal

    @tomo_momomo_yo

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    9999_seal

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    所謂ドルパロのローサンです。
    🕒君単推しの🐯が地道なファン活動をしている話。
    🐯が🕒君を愛し過ぎている。

    〝シロクマ〟さんの備忘録(ドルパロ ローサン)『仕事を抜け出してサンジが表紙を飾る雑誌を購入。早速インタビューを読んだが、サンジの人柄の良さを感じられる受け答えに荒んだ心が癒やされた。
    サンジは優しいが、それは彼にとっては当たり前に行う気遣いの範疇でしかなく、特別なことをしている意識が全くない。そういうところが好きだ。
    インタビューの内容を思い返すだけで午後からの仕事も頑張れる。 -26』


    「文字数オーバーか……」
     チッと舌を打ち、スマホで打ち込んだ文章を頭から校正する。「仕事を抜け出して」、「荒んだ心が」、「インタビューの内容を思い返すだけで」を削除してなんとか140字以内に収めた。このアカウントは〝推し〟への想いを書き綴るために開設したものであるからして、投稿主たるロー自身の情報は不要である。
     もう一度読み返してから投稿ボタンをタップすると、一秒と経たず〝シロクマ(@bepobepo_cute)〟のタイムラインの先頭に先ほど打ち込んだ文章がポシュッと現れる。自分の〝推し〟への愛や想いが情報として全世界に発信されたのだと思うと大変に気分が良く、投稿してからすぐにフォロワーの〝いいね〟が付き始めれば我知らず口許を緩めてしまう。
     以前は何が楽しいのかさっぱり理解できなかったSNSだが、自分の〝好き〟を肯定してもらえるのは単純に嬉しい。自分の中に通る心の支柱を今よりも太くできる気がしていた。
     準備に手間取りあまり時間も残されていないので、取り急ぎ〝推し〟とその周辺を纏めているリストから新たに投下された情報がないかをチェックする。――と、ローの視線がある投稿に留まった。水曜ドラマの公式アカウントだ。
     小説や漫画に原作を持たずないオリジナル脚本のドラマは、今季一番の話題と人気を誇っている。主人公である若き料理人を演じるのは我等がヴィンスモーク・サンジ。幼少期から実家のレストランを手伝っていたというサンジは一流料理人をも唸らせる腕を持ち、ドラマ内の料理シーンも原則として全てサンジ自身が行っている。ドラマの放送前には、一話の料理シーンのメイキングがノーカットで動画サイトに投稿され、目にも留まらぬ包丁捌きや堂に入った鍋の振り方がSNSでトレンド入りを果たして話題を呼んだ。
     ドラマの公式アカウントは絶賛放映中ということもあり投稿が盛んで、中でも主演のサンジをはじめとする出演者のオフショットは数万件の〝いいね〟が付くのが当たり前。今日の正午きっかりに投稿された写真もオフショットだ。
    「…………」
     いつもであれば即座に引用リポストでサンジの格好良さ可愛さ尊さをワールドワイドに呟くローであったが、今日に限ってはその指がなかなか動かなかった。むっつりと顔を顰め、「ふ」と短く息を吐く。
     それもこれも、投稿された写真に写っていたのがサンジだけではなかったからだ。
     サンジが他の出演者と写っていること、それ自体は構わない。現場の人間関係が円滑に保たれている証拠だと、一ファンとしては歓ぶべきことだとさえ思う。
    (だが、コイツは……)
     射るような眼差しで手の中のスマホを睨め付ける。サンジが日頃から〝マリモ〟と称する緑頭が意識せずとも目に付いた。
     ――ロロノア・ゾロ。
     サンジと同じグループで活動している男性アイドルであり、先週放送された回では一話限りのゲスト枠として出演を果たしていた。硬派で武骨、令和の時世にあっては珍しい筋骨隆々の骨太アイドルだが、なかなかどうしてファンからの受けは良く、某雑誌の〝抱かれたい男〟ランキングでは、毎年トップに鎮座ましましていたローが殿堂入りを果たしてからというもの二年連続でゾロが首位を獲得している。誰に対しても素っ気なくぶっきら棒だが、裏表のないサッパリとしたゾロの性格はサンジ単推しのローから見ても好ましいものだった。
     だが、しかし。
     サンジとのセット売りは駄目だ。許し難い。
     寄ると触るとギャンギャン啀み合ってるサンジとゾロ。しかしどういうわけか抜群に息が合うも事実なわけで、デビュー当初からリーダーにしてセンターであるモンキー・D・ルフィを間に挟んだシンメトリー――ファンの間では両翼と呼ばれている――が定着している。
     さきほど上げられたばかりのオフショットも、喧嘩が白熱して額と額をゼロ距離で突き合わせる、通称〝デコグリ〟を激写した一枚だった。

     ……実に、面白くない。

     しかしサンジの素を垣間見られるオフショットは大変貴重だ。無論、ファンであればサンジの素がコレであることくらいとうの昔に知っている。
     というのも、サンジは女性ファンと男性ファンとではその対応に著しい差があるのだ。SNSをはじめ不特定多数に向けた媒体では、女性ファンを意識して王子様のような振る舞いを心掛けているサンジであるが、ファンからの受けが良いのは対野郎への〝言葉遣いは粗雑であるが、なんやかんや面倒見は良い兄ちゃん〟であるというのだから皮肉な話である。
     なので、各オフィシャルから発信される情報でサンジがここまで分かりやすく素をあらわにしているものは案外少ない。その素を引き出したのがロロノア・ゾロというのはやはり全く面白くないが、引用で感想くらいは添えておきたい。たとえインターネットの海にあぶくも残さず沈むだけの言葉だとしても、これほど深く激しくサンジを愛した人間がいるのだという証を残しておきたかった。
     サンジとキスの距離で額をくっ付けているゾロの存在はそっとスルーして触れず(だって多くの人の目に触れる引用で悪し様に罵ったら、ゾロのファンや他界隈に「これだからサンジファンの治安は」とか冷ややかな目で見られてしまう。それではサンジに申し訳ない)、結局サンジの横顔の美しさ――特に鼻梁の輪郭と耳殻の形について熱くポストし、アプリを閉じながら画面上部のステータスバーで時刻を確認する。
     本番まではあと二十分。ローが出演するのは一時間半ある番組の中のたった十分なので、元より大した立ち回りは求められていない。来週発売する写真集を宣伝すると共に、カメラの向こうの視聴者へ向けて薄く微笑み掛ける。その後は知的なトークを一つ二つ繰り出せばお仕事は完了。この業界が長いローにとっては実に楽な仕事であるが、敬愛するドジっ子マネージャーが「世間にもっとローの格好良さを知ってもらわないと!」と取ってきた仕事である以上、そこに怠惰や妥協を差し挟む余地はない。
     ローにとってコラソンは信頼できるマネージャーであると同時に、少年期に家族を喪い行く当てのなかったローを引き取り、直向きな愛をもって育てくれた父親のような存在だ。医師免許を持ちながら敢えてこの業界に飛び込んだのも、コラソンが見ている世界に自分という存在を置いておきたかったからに他ならず、またローの成功はそのままコラソンの実績として積み上がると思えば背筋も真っ直ぐ伸びるというもの。
    (安心して見ててくれ、コラさん)
     心に一本の芯を通し、眼差しを改める。アンタが見出した男は今日も最高の仕事をするだろう。
     ……まあ、今日に限って言えばちょっとした〝下心〟があるわけではあるが、そこはそれ。
     誰に言い訳をするでもなくローがコホンと咳払いをした時、手の中のスマホがブルブルと振動した。手元へ視線を落とせば〝いいね〟の通知が画面上部に現れる。フォロワーか、或いは検索からローの呟きを見付けた同好の士かとも思ったが、そうではない。
     眼球が零れ落ちそうなほど大きく見開かれたローの両眼は瞬きの一つもせず、自身のスマホへ釘付けになっていた。

    『サンジ / Vinsmoke Sanji さんがいいねしました』

    スマホを握る手の指へ力が籠もる。仮にも精密機器が、ミシ、ミシッ、と不安げな音を立てていたが知ったことではない。
    (サ、サンジから……推しから、〝いいね〟が付いた……!)
     忙しない指の動きで〝いいね〟をしたアカウントがなりすましなどではなく、サンジのオフィシャルアカウントであることを確認して感動に打ち震える。
     サンジが機械音痴であることはファンの間で周知の事実だが、ファンからの応援を掛け替えのない大切な宝物として受け止めているサンジは、機械音痴なりにもたもたとエゴサを行い、自身のファンの呟きに〝いいね〟を付けることがある。深く昏い情報の海へ沈みゆくはずだった自分の呟きが、水面から射し込む光の帯のような目映さでサンジの手に掬われてしまった。
    「尊い……」
     誰に告げるでもなくうっとりと呟いた声は恍惚に蕩けているが、その手の中では未だスマホがミシミシと憐れな軋みを上げていた。
     ――おれの、サンジ。
     美しい人。優しい男。ローの脳ではなく左胸に芽生えた愛の輪郭は、出会った頃から変わらずサンジを描いている。
    (愛している)
     お前だけだ。お前さえいてくれれば、おれは何だってできるし、何にだってなれる。こんなにも、おれはお前を愛しているんだ。
     剥き出しの魂が叫んでいる。声には出していないのに、喉が破れたように熱かった。
     もうすぐ本番だというのに、泣きたくなるほどの愛おしさで心臓を鷲掴みにされたローが堪らずグスッと鼻を鳴らし掛けた時――
     
    「ろーぉ」

     湿り気を帯びた吐息が首の裏を妖しく舐める。甘く擦れた声と共に背後から回された二本の腕。ローは咄嗟にスマホを裏返してテーブルへ伏せると、肩から絡み付く愛おしい腕を右手の指で優しく撫でた。滑らかな光沢を帯びるモヘアの感触が心地良い。
    「随分真面目くさった顔してスマホ見てたけど、仕事の連絡? 折角おれが声掛けてやったのに無視してくれちゃってさ」
     ふすぅ、と当たる鼻息の擽ったさにローが肩を揺らす。
    「悪かった。とても……ああ、とても大事な案件があってな」
    「ふうん」
     まあいいけど、と耳元で囁く声は吐息と殆ど変わらない。同じベッドで眠ることを許された者だけが知る声の儚さに腰の奥が甘く疼いた。
     ――いかんいかん、仕事中だ。プロの道から外れた格好悪い姿を見せるわけにはいかない。
    (しかし、何という奇跡。まさか同じ日にサンジも番宣で出演するとは)
     ローの恋人はアイドルだ。応援してくれるファンに極彩色の夢を見せるのがお仕事。サンジは一見すると軽薄とも思える振る舞いをする青年だが、その実極めて高いプロ意識を有し、そしてそれ故にローとの関係も徹底的に隠している。そもそもにして、交際の条件としてサンジから突き出されたのが「おれ達の関係が表に出るようなことがあれば、即別れる」だった。
     当然、SNSを介した〝匂わせ〟は厳禁。ロー自身のオフィシャルアカウントから〝リポスト〟はおろか〝いいね〟をすることさえ禁じられている。
     ……ので、ローは仕方なく〝シロクマ(@bepobepo_cute)〟で地道なファン活動を行っていた。
     因みに、つい先ほどサンジ自身が〝いいね〟を押したこのアカウントの存在はサンジ本人にも内緒にしている。〝シロクマ(@bepobepo_cute)〟は、〝推し〟からの認知を求めぬ奥ゆかしい一ファンとしてひっそりと応援していたい。
     勿論、〝匂わせ〟もしたことはなかった。サンジは世界一の恋人であるとワールドワイドに喧伝したいのはやまやまだが、サンジのキャリアと信念の前ではロー自身の欲望など天秤に掛けるまでもない。何せ、ローにとってヴィンスモーク・サンジは唯一無二の〝推し〟なので。
    「あ、それ」
     テーブルに広げられているタブレットや台本。その中から自身が表紙を飾る雑誌を目敏く見付けたサンジが、隠し切れない喜色に弾む声を上げた。
    「へへ……。表紙のおれ、イケてんだろ?」
    「ああ。お前はステージでは黒の衣装を着ていることが多いが、ピンクもよく似合ってる。巻いた髪も綿毛みたいにふわふわしてて可愛いな」
    「そこは格好いいって言えよ!」
     後ろから白い指につんつんと頬をつつかれる。年若くしてリスクマネジメントに長けているサンジのことだから鍵は掛けているのだろうが、自分達の関係を懸命に隠したがっている彼が互いの自宅以外でこれほど分かりやすく甘えてくることは珍しい。
    (生身の、サンジだ)
     思えばここ最近の自分達は過密を極めたスケジュールで日々を過ごし、セックスはおろか、こうして直接触れ合うこともできずにいた。その結果として〝シロクマ(@bepobepo_cute)〟のタイムラインはサンジへの愛と渇望で埋め尽くされていわけたが、自らの裡から生まれ出ずる熱情のアウトプットに気を遣るあまり、サンジとの時間を作る努力を怠っていたような気がしてチクチクと胸が痛んだ。サンジが人に縋ることのできない性分だとは嫌というほどよく知っていたのに。
     壁の時計を見る。残された時間は精々あと五分といったところ。十分だ。
     化粧が崩れるから、キスはできない。セットされた髪に指を差し入れることも、服に皺が寄るほどきつく抱き締めることも。お互いに面倒な世界で生きていると思うが、華々しいステージで歌うサンジに魅了されてしまったのだから仕方がない。
    「今夜は、お前のベッドで眠りたい」
     その低い声の響きに、背後のサンジが身動いだ。
     肩から伸びる手を取ると軽く引っ張り、恋人の細い身体を膝の上に乗せる。オーバーサイズのニットがあざと可愛く、今が仕事中でなければこのまま捲り上げてピンク色の乳首にむしゃぶりついていたところだ。
     ローを見詰める左眼の虹彩が熱に潤んでトロリと溶け、目蓋を縁取る睫毛の先が切なげに揺れる。
    (クソッ、可愛いな……)
     〝匂わせ〟など、する気はない。する気はないのだが、今は心の底から「おれの恋人がエロくて可愛過ぎるんだが!?」と叫びたかった。
     口寂しさをぐっと堪え、キスの代わりに指と指とを絡ませ合う。中節骨の形を確かめるように指先で撫でさすると二人の間で視線が結ばれ、サンジがくいと肩を竦めた。
     オイ、よく見たらこの服、肩口が出過ぎじゃねぇか?
     思わずローが眉を顰めると、対照的に膝の上の恋人はくっと口角を吊り上げた。獰猛に光る勝ち気な瞳は何度見ても見飽きない。
    「お忙しい〝トラファルガー・ロー〟が、常識的な時間におれの部屋まで来られるなら」
     鼓膜を蕩かす甘い声。楽屋の外からは自分達を呼びに来るスタッフの跫音が聞こえる。
     ああ、頼むから。本番前に、〝クールでイケてるトラファルガー・ロー〟の仮面を軽率に剥ぎ取らないでくれ。

     ――おれの〝推し〟は、今日も最高に可愛くて格好良くてエロかった。
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