偏屈探偵と午後のひととき[第三話]「とても大きな鞄だな、ミス・フラムスティー。なるほど、ドクターズバッグか‥その鞄の中身は一体何だい?」バジルはパイプを片手に、席を立ち、目を細め、背を曲げて、鞄をまじまじと見た後、背筋を伸ばし、鞄を持ったオリビアに尋ねる。ドーソンも席から立ち上がり、自分なりに鞄を観察する。「ふふんまぁ、二人共、あまりの嬉しさで、思わず飛び上がらないで頂戴ね」オリビアはニンマリ顔になり、鞄をポンポンと二度叩き、鞄を開けようとし、「あそうだ二人共、わたしが良いよと言うまで、目を閉じてて頂戴ね絶対よ」オリビアはバジルとドーソンに目を閉じる様に言った。「あぁ、分かったそれじゃぁ今から、目を閉じるね。」ドーソンはすんなりとオリビアの要望に答えた。「何故目を閉じなければならない?別に閉じなくても良いだろう?ははん、さてはミス・フラワージャークは、僕等に見られたくない物品を持ち込んだと言うわけ‥」バジルのなかなかの偏屈ぶりに、ドーソンはまたも呆れた。オリビアは、自分があまりにも信用されていない事に深く傷付いた。オリビアは目に涙を浮かべ、弱々しい声でポツリと呟いた。「全然そういうのじゃないの‥ぐすっ、わたしね、目を閉じて貰いたかったのはね、サプライズみたいにしたかったの‥二人の吃驚する顔が見たかったから‥」オリビアの呟きは皆に聞こえていた。バジルの心は痛んだ。少しバツが悪そうにオリビアの方を向き、「ほら、目を閉じたぞ。さぁ、鞄の中身を教えるんだ。」と少し優しく言った。半泣き状態だったオリビアは、パッと顔を輝かせ、「うん分かったそれじゃぁ見せるわね」オリビアはルンルン気分で鞄の中身を取り出し、テーブルに置いた。目を閉じた二匹は少しの間、何も言わずに立っていた。
「良いわよさぁ、目を開けて」
オリビアにそう言われ、目を開けると、テーブルには、豪華な品々が並んでいた。ドーソンは子供みたいに目を輝かせた。バジルも少しだけ興味を引かれた。「えへへ、どう?なかなか良いセンスでしょあなた達の好みに合うように、わたし、練りに練ったんだからだって、まったりくつろげる場所と、美味しいおやつを用意してくれるんだものお礼くらいしないとねっ」オリビア腕を組み、ふふんと得意気に笑った。
「ありがとうオリビア、とっても嬉しいよ」ドーソンは心からお礼の言葉を掛けた。「誰がプレゼントを欲しいと言った?まぁ‥そうだな、どうもありがとうミス・フローラルシャム 」バジルも自分なりに、優しくお礼を言った。「ふふっ、お礼は良いのよ、後フラバーシャム」オリビアはわざと大人口調で、丁重に礼を断った。
現在時刻16:30。「大変そろそろ帰らなくちゃ長居し過ぎてしまったわ」大広間で、床に座り、皆でババ抜きをしていたオリビアは、長居し過ぎた事に気付き、慌てて帰る準備をした。「おや、もう帰るのかい?まだ16:30だよ?」ドーソンが不思議そうに尋ねる。「だめよもう帰らなきゃ太陽はもうこーんなに傾いているのよ?今から帰らないと、夕食の時間に間に合わなくなるし、これ以上時間が過ぎると、暗い夜道の中、一人で走って帰らないといけなくなるの」オリビアは着々と帰る準備をしている。
バジルはトランプを胸ポケットに仕舞いながら、ドーソンは乱れたラグを敷き直しながら、同じ事を考えていた。マウストピアからベイカー街まではかなりの距離がある。それを、一匹の小さな少女が一人で帰ると言うのは、かなり危ないと言う事は重々承知している。だからと言って今が最適な時間帯だとは思わない。危険は何時何時だろうと訪れるものだ。一人で帰すよりも、大人が、ましてや名探偵(名医師)がついていれば、安全は保証されたも同然だ。
ジャドソン婦人がオリビアに鞄の渡し、玄関のドアを開ける。「ジャドソンさん、今日はどうもありがとうそれじゃぁまた明日ねバジル、ドーソン‥」とオリビアが出ようとした時、何故かバジルとドーソンもついて来た。オリビアは不思議そうに二匹を見つめた。「あなた達も出掛けるの?」「あぁ、僕はマウストピアに行かなければならない大事な用事を思い出したのでね。ついでだから、一緒に行ってあげよう。」バジルは『ついで』を強調した口調でツンと言い、ドーソンもそうそう、私もその付き添い。と大きく頷いた。
「ではお気を付けて。」ジャドソン婦人が恭しくお辞儀をし、「では、行ってくるよ、ミス・ジャドソン。僕等が留守の間、此処を頼んだよ。」「すぐ帰って来るよ。」「じゃぁねーバイバーイ」三匹が口々に言い、外へ出る。
帰路中、バジルは歩きながらドーソンに耳打ちした。「ドーソン、今日は中々に良い退屈凌ぎになったよ、あまり疲れなかったしね。毎日これとなると、僕は退屈過ぎて、頭がおかしくなる事が無くなりそうだよ。残るは、連日のように来るご夫人方達の対処法を練らないとね。」「君の得意な変装で、誤魔化すのはどうだい」「それも良いかもしれないけど、いつまでもつかな待ち伏せされても困るし‥それかいっそ死亡説でも流すか」「バジルやめろよく考えろオリビアが本気で悲しむぞ」ドーソンが慌ててバジルの提案を却下した。「死亡説‥良いと思うんだがな‥」バジルは不満気な顔でパイプを吹かした。