偏屈探偵と午後のひととき[第四話]自ら率先して歩いていたオリビアは、自分がバジル達の眼中に無い事に気付き、なんとか見てもらおうと得意の構ってちゃんをした。「ねーバジルーバジルーバージールってばわたしもう疲れたーおんぶしてー」
バジルはピクリと眉を動かし、オリビアを睨み付けた。「何故僕が君をおんぶしなきゃいけないんだ?まず、僕がミス・フレームシャロンをおんぶする事で発生するメリットを教えてくれないかい? メリット?無いだろう?本音で言えば僕は今とても疲れているんだ。出来る事なら、君なんかをおんぶして、体力を消耗したく無いね。」バジルはそう言い、目を閉じそっぽを向いた。頑なにオリビアをおんぶしたく無い様子だ。ドーソンが「じゃぁ、私が代わりにおんぶしようか?」と言おうとした時、オリビアは「おねがーい」とキラキラお目めで、バジルに懇願した。
「クソ‥どうして僕が‥」結局、バジルはオリビアに負けてしまった。オリビアは「高いたかーい」とキャッキャと笑いながら、手や足をバタつかせていた。「あまり暴れるようだと、僕は君を遠くまで投げ飛ばす羽目になるが?‥嫌ならば静かにしていてくれたまえ。」バジルはオリビアを脅した。「はぁーい。」オリビアは悪びれた様子の無い返事をした
あんなに落ち着きの無いオリビアが嫌に大人しかった。バジルはオリビアの方を振り向き、そしてまた前を向き、小言を言い始めた。ドーソンはバジルの小言に対し、うんうんと、相槌を打ち続けた。
時刻は18:00。オリビアの父、ヒーラム・フラバーシャムは、オリビアの帰りを、まだかまだかと待ちわびていた。辺りはすっかり暗くなっていた。と、ドアをノックする音が聞こえた。ヒーラムは「はい今行きます」と元気良く言い、勢い良くドアを開けた。
「突然失礼してしまい、申し訳御座いません。」にこやかな顔を浮かべた長身の男性が上がり込んで来た。ヒーラムは眼鏡を掛け直し、そして驚愕した。「えっばばばバジルさん⁉何故‥どうして此処へ?」「実は御宅へ帰る際に、貴方のお嬢さんが急に寝てしまいましてね。」バジルはそう言い、ヒーラムに背を向けた。バジルの背では、オリビアがすやすやと寝息を立たてて眠っていた。ヒーラムはホッと安堵の表情を浮かべた。「わざわざ連れて帰って下さるなんて‥申し訳無いです‥」ヒーラムの背は縮こまった。「そんなそんな気になさらないで下さい。彼女のお陰で良い退屈凌ぎになったんですから。」「はぁ‥それは?良かったです。」二匹はヘコヘコと詫びと礼を互いに言い合った。
「はぁ‥全く、今日も疲れたな‥」
帰路中、バジルは歩きながら伸びをした。ドーソンもバジルの真似をした。「さぁてドーソン、明日の策を練らなければ。」「死亡説は却下だからな。」「分かっているとも。」二匹は真面目くさった、時に談笑しながら、マウストピアから遠く離れたベイカー街までの道のりを歩いていった。