フィーチャーif🚀の話 冒頭月には海が無かった。
羽衣をひらめかせながら、跳ねるように、泳ぐように、黒い大地を踏み締める。眼下に延々と広がるそれは、かつて人間が「海」と名付けたものだった。
月面では、どれだけ遠くに行こうと、映る景色はそう変わらない。僕は自分の居場所を見失ってしまう前に、前へと進む足を止めた。天上には青く煌々と輝き続けている地球が見える。月から見えるそれの位置は時間が経っても変わらないから、それを目印にすれば自分の方角が把握できた。
此処の「海」には、地球のそれとは違って、命の煌めきが存在しない。
陽射しを受けてきらきらと青く波打つ海原も、白くさざめく砂浜も。水を掻き分け優雅に泳ぎゆく魚も、海底を鮮やかに彩る珊瑚も、それらすべて月には無いものだった。
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