兄セ!「兄さんって呼んでもいいですか?」
「どうした降谷くん、また頭湧いたか」
久方振りに帰ってきた降谷は真っ直ぐな目で赤井に問うた。それに赤井はまた降谷が疲れでおかしくなったんだなとぞんざいに返した。
「いや待ってください、聞いてください」
「食い下がってきやがった」
降谷はソファに座って本を読んでいた赤井の脚に縋り着いた。その顔は捨てられた子犬の様だが、如何せん台詞が台詞である。赤井は嫌な予感しかない。
「世にはパパセなるものがあるじゃないですか。なら兄セがあっても良くないです? ヒロとか太閤名人とかが『兄さん』って呼んでるのいいなぁって思って。ほら、僕一人っ子じゃないですか。いいなぁって、ね?」
「なにが ね? だ。そら寝ろ寝ろ! 寝て起きたらそんな馬鹿げた事はきれいさっぱり忘れられるさ。さぁお眠り降谷くん」
「ヤダァ! 赤井と兄セしたいぃぃぃい!! 兄さん、僕を下の口で抱きしめて…! ってしたいぃぃぃぃぃい!!!!」
降谷は最低な事を喚いて赤井にまとわりつく。それに赤井はやれやれと降谷の顔をそっと引き寄せる。
「お前は悪い子だな。兄さんを困らせて楽しいか? ん?」
「ヒュ……! 兄さん!!!」
降谷は満面の笑みを───
「フンッ!!」
浮かべる前に赤井の頭突きによって意識を失った。
「まったく、この子の悪い子癖だな」
赤井はどっこらせと降谷を担いでベッドに運んでやる。降谷は過労に陥るといつもわけの分からない事を言うようになるので、毎度毎度頭突きやら手刀やらで強制的に眠らせてやっている。
「しかし兄セとはな……君には恐れ入るよ……」
いつか降谷の口車に乗りそうで怖い赤井である。