シークレットゲスト新しい仕事が入った、と言われて呼び出された場所には零が既におり、席に着いていた。
目の前にいるのは何名かのスタッフだった。
零の今日の予定は、新しいドラマの打ち合わせだと聞いている。薫はその時間空き時間だったのだが、昨日から今日にかけての深夜、急遽詰め込まれたこの予定は打ち合わせとしか言われず、なんの仕事なのかもはっきりとわかっていなかった。だが今ここに零がいる。薫が呼び出された理由がわからずに促されるまま薫は零の隣の席に座った。
「朔間くんが次のクールでドラマの主演をするのは羽風くんも知っていると思うけど」
「はい。刑事ドラマですよね?」
検挙率ナンバーワンとも言われる主人公。しかし、彼はある事件をきっかけに事件と関わることをやめ、サポート側の部署へと移動する。
そんな彼に憧れた新米刑事が彼の元に事件を相談しに行く……。
一話完結型のドラマで、基本的には主人公と新米刑事のやり取りで進むと聞いている。新米刑事も、別事務所のイチオシ俳優が選ばれた、とも。
主題歌は零が主演ということでUNDEADが担当で、作詞作曲はドラマに合わせて零が作ることになっている。
それが薫が今持っているドラマの情報だ。
「朔間くん演じる主人公には元々相棒がいてね。その相棒がとある事件で姿を消す。その相棒を探すために主人公は事件から離れている……という設定なんだけど、今日羽風くんを呼んだのは朔間くんのかつての相棒役を羽風くんに演じて欲しいからなんだ」
「なるほど……。かつて、ってことはその相棒はもういないってことですか?」
「これは今後の展開につながることだから今の段階ではあまり言えないんだけど、そういうわけじゃないよ」
薫は黙り込む。
零と薫は相棒で、UNDEADの二枚看板と呼ばれているし、自分たちもそうであると思っている。零の相棒ということで今回オファーがあったのだろう。なおかつ仕事の内容を告げられず、突然の打ち合わせというオファーの仕方から、おそらくこれは極秘事項で、直前まで薫の存在は放送時まで明らかにされない……のだと思う。
薫はできる限り自分にきたオファーは引き受けるつもりでいる。それがUNDEADの未来に繋がるからだ。しかし、これは薫が零の『元』相棒であるという立ち位置。薫と零のファンは二人が相棒であることを望むだろう。けれどこのドラマでは薫は『過去』の人間。自分たちのファンは少なからず複雑な気持ちを抱くかもしれない。それは薫として避けたいことだった。
薫の気持ちは先方もじゅうぶんわかっていると言うように頷いた。もしかしたら零が先に言ったのかもしれない。
「UNDEADのファンを不安にさせることは絶対にしません」
そう言ってスタッフが紙を差し出してきた。