エンドロールは、きっと、まだ あの肖像画を目にした時に、皆は僕と違って首を傾げていた。疑いようのないその人の存在した証、それからうんと遠くの過去に想いを馳せて、僕は涙よりも先に感嘆の声をあげた。それはきっと、僕なりの現実逃避の始まりだったのかもしれないけれども。
白と黒、ポイントに橙。本当に、君はその全てをかけて世界に大好きなものを伝えたんだ。実感と喜び、憧れと幸福。随分と距離は遠くなってしまったけど、君の叶えたものは全て、僕の生きる世界で輝いている。そして同時に、引き返しようのない悲しみや、粉々に砕けてしまった後悔と初恋を自覚するのにも時間はかからなかった。
「そっかぁ…そっか。」
君の肖像画を見つめて一言、僕はそれしか言えなかった。
周りはうんと忙しくしていて、僕だけが時の経過に足を引っ張られている。それが申し訳なく感じてしまうのが嫌で、誰にもこの気持ちと心の中に留まったままの初恋を告げることは出来ない気がした。君がどうして、あの時と同じポーズをしているんだろう、とか、サングラスはどうしちゃったのかな、だとか…考えても答えになることは浮かばないのに、それだけ僕は君を忘れずに生きていけると思い込んでいるんだ。
「子分、ここ数日ずっと変だゾ、ウワノソラ、ってやつか?」
「違うよ、上の空なんかじゃないって。ただ…ただ、ハロウィンってこんなに、楽しくて悲しいんだなって…うまく言葉に出来てないけど…うん。」
「毎日毎日、あの肖像画を見ては同じことしか言わねーんだゾ、そんなにアイツのこと、気になるのか?」
「気になる…といえば、そうかも。でも、何もしないままが良いなって。…自然とそう思っちゃうんだよね、知りたいのに知らなくても良いや、って、変な感じ。」
……きっと違うんだ。僕がそれで良いんだと思い込んでるだけで、君の全てを知る権利も、君の影を追うことも、何だって出来てしまうのに。誰かが君の手を取っていたのかな、君の隣で笑っている時があったのかな、未熟な恋心に不安定な天気予報ばかりが出てしまう。そうして、君の足跡を辿った先に浮かぶ、自分の小さくて脆い恋心を一欠片ずつ拾う僕が情けなく見えるんだろう。誰にも打ち明けられない、誰にも渡したくない、最初から決まっていた僕のひとり旅に、たとえゴーストになっている君でさえも、巻き込むことはしたくないから。
「ねぇ、グリム。今日は美味しいもの、食べよ。それでさ、それで……いっぱい、幸せ、感じよう。」
「子分…?」
抱えている親分に覗かれるのが怖くて、僕は唇にぎゅっと力を込める。視界に映る君の姿をもう一度、目にしてしまったらもう抑えきれなくなるだろう。寮に戻ろう、背を向けて立ち去ることを決めた。君の声を少しずつ、これから忘れていくのかもしれない。君の大好きを語る表情も、大好きを守りたいという格好の良い姿勢も、僕の初恋も。
一緒にどうか、流れてくれますように。
――吾輩はいつでも、此処でお待ちしておりますよ、監督生さん。
振り向くことは、しなかった。
僕の頭で描いた君の声だから。君は、言ったことのない言葉だから。
涙と熱い息で僕が溺れる前に、この右足は動かさなきゃいけなかった。