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    りぷでもらったお題そのさん
    杉尾「Have Yourself A Merry Little Christmasの後日談」

    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=14319369
    これの後日です

    杉尾「Have Yourself A Merry Little Christmasの後日談」「許されるはずがない。あの人は兄を殺したんですよ……!」
     けして小さくない、険しい声音に、周囲の雰囲気が硬くなった。
    「……裁判は無罪だった」
     杉元はそう言って、この時期には気の利かない、氷たっぷりの水を口に少し含んだ。
    「裁判なんて!」
     向かいに座った女はバンッ、と卓を殴り、拳をぐりぐり押しつけた。
    「私も息子も人生を狂わされたっていうのに! あいつは呑気にヘラヘラ笑って!」
     女は忌々しげに憎悪をはき続ける。悪魔、死神、金の亡者……。
    「あいつ、金は全部お兄さんの息子にやったって言ってた」
    「信じられますか! その息子とやらだって偽物に違いないわ!」
    「あんたもDNA鑑定の結果見ただろ」
    「兄はそんなことする人じゃ無い!」
     鼻息荒い反論に、杉元は小さなため息をついた。
     尾形は夫を殺した。言い争いの果てに、頭を打って倒れた夫を見殺しにした。
     刑事裁判では無罪と判決を受けて釈放された。
     民事でも原告――いま杉元の向かいに座っている元夫の妹だ。すでに婚族関係は解消されているから、尾形の元義妹ということになる――の請求は却下され、相続法に則り、夫の財産は全て尾形のものになった。
     尾形は、夫のマンションも車も時計も全てを現金化し、夫が不倫相手に孕ませた子供にあげてしまった。
     全ての手続きが終わって一年経つというのに、この元義妹だけが納得せず、尾形に嫌がらせを続けている。
     先日、尾形の職場に〈人殺し〉と大量のFAXを送ってきたのもこの女だ。職場はもちろん事情を知った上で尾形を雇っていたが、客がいる以上、トラブルは抱えられない。社長に辞めてくれと頭を下げられてしまったと、尾形は半笑いで荷物を抱えて帰ってきた。片目を失い、無罪だったとは言え経歴に瑕疵がある尾形の就職は難しい。
    「なあ、あんたのこと、俺は訴えろって言ってるんだよ。尾形は無罪だ。民事でも正当な相続を受けた。間違ってるのはそっちだからな」
    「……っだって!」
    「でも尾形は、兄貴を亡くして辛いだろうからって、黙ってるんだぜ」
    「当然よ! あの尻軽さえいなきゃうちの子が花沢の後継になれたのに!」
    「そもそもその尻軽を利用してたのはアンタの兄貴だろ? アテが外れたからって、金払え責任取れって、意地汚えのはどっちだよ」
    「……」
    「何度も言ってるけど、アイツは親父と縁を切ったし金も持ってない。嫌がらせしたりこうしてしつこく呼び出したり、あいつが訴えないなら、俺が訴えてもいい」
    「そんな……」
     顔を真っ赤にしていた女は、今度は目元を潤ませた。
    「だって……兄さんの言うとおり生きてきたのに……これからどうすれば……っ」
     ぎゅう、と握った袖はほつれていた。元々は高価なブランドのセーターなのだろうが、何度も着回してくたびれている。必死になでつけた髪も傷んでいるし、顔色も良くない。どこからどうみても、女の経済状況は苦しそうだった。
    「ハア……市役所行って、生活に困ってますって相談しろよ。子供のためを思うなら、正しい所に訴えて助けてもらえ」
    「……ううぅ」
    「じゃあ、もう行くから」
     杉元は懐から女の分も含めた金を出し、卓へ置いて立ちあがった。心配そうにこちらを見ていたウェイターにぺこりと頭を下げて店を出る。
     尾形の裁判が終わり、自宅に連れ帰って一年経った。季節は巡って再び冬、年の瀬だ。商店街の賑やかな人混みをすり抜け、杉元は自宅へ帰った。
     人生の半分近く過ごしているアパートの戸を開けると、温かい空気が迎えてくれた。
    「ただいま~」
     上着を脱ぎ、手洗いうがいをしてリビングへ向かうと、先月新調した布団に尾形が寝転んでいた。呑気にクッションを抱えてテレビを見ている。杉元を見上げて、左右非対称の表情でニタと笑った。
    「もう小遣い全部スッたのか」
     元夫に暴行されて右目を亡くしただけではなく、筋肉や骨も損傷して、元のように上手く動かないのだ。
    「パチンコじゃねえよ。野暮用」
    「女か」
    「まあね」
    「モテる男は大変だな」
     杉元は寝そべる尾形の前に腰を下ろした。
     尾形は以前と同じツーブロックになった。髪型で怪我を隠そうとすると逆に不自然になるから堂々としている。まともな神経の人間なら気付いても何も言わない。
     杉元は艶を取り戻した髪をかきあげ、撫でてやる。
    「お前、焼いたりしないの」
    「別に」
    「えらい自信だな」
    「……帰ってくるだろ?」
     指の背で頬骨をなぞると、尾形は片目だけちらりとこちらに向け、猫みたいに細めた。本人は上手く隠したと思っているようだが、右目の死角となった枕の下に、求人雑誌がはみ出ている。杉元は頬をぎゅうとつねられた気がして、尾形に覆い被さって優しく捕まえた。
    「帰ってくるよ。必ず」
     尾形は重いと文句を垂れても、大人しく腕の中に収まっていた。
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