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    岡田夢SSです。

    #岡田夢
    dreamThatComesTrue
    #フミオオンリー
    fmioOnly

    わすれえぬ君 集合ポストの中身を鷲づかみにして、小さな我が家へたどり着いた。
     静かなダイニングのテーブルに郵便物を放り投げる。スーツ屋のダイレクトメール、電気の明細、ポスティングチラシ……いつもどおりの手触りの一番下に、上等な厚紙の洋封筒があった。
     きらびやかな特別切手、万年筆で丁寧にしたためられた宛名。こんなものをもらう覚えはない。裏に返すと、差出人の名前があった。
     岡田文夫。
     私の、大切な思い出の名前。


     岡田文夫と私の間には何もない。小学校の同級生だった。それだけ。同じクラスになったことすらない。放課後ランドセルを投げて公園に集まる仲間の一人でもないし、同じ部活動をしていたわけでもなければ、委員会も全く別だった。
     私と彼はお互い友達の多い子供だった。彼はさっぱりとして朗らかな性格が顔ににじみ出ていて、どんな相手とも仲良くなれる子だった。私は大人や社会へのネガティブな感情を共有するために同類とつるんでいた。パッと見はあまり違わなかったけれど、ふとした時に流れる空気が違ったから、グループ同士の交流はなかった。
     廊下で友人達と話していると、少し離れた人集りの中心に彼がいる。時々目が合うようになって、ある日、彼から「よう」と声をかけられた。私は怖いとか、暗いとか、厳めしい評判で通っていたから、距離を詰めてくれた岡田に対し、なんだか負けたような気持ちで「よう」と答えた。恥ずかしくて、ムスッとしてしまって、可愛く答えられなかったことがずっと気にかかっていた。
     早熟な男子の中には自慰を仄めかす子もいて、誰それが可愛いという話題も頻繁に出ていた。岡田もきっと私を可愛げのないゴリラだとか思ったに違いないとか、いやいやなんで誰かに媚びなきゃならないのだとか、数日は悶々としながら「よう」に答えていた。
     だが岡田を観察していて、そのモヤモヤもすぐに解けた。彼は誰にでも挨拶をするのだ。兄姉を訪ねてきた下級生にも、たまたま通りかかった上級生にも、先生にも、学校で飼育しているうさぎにも「おはよう、今日は暑いな」と話しかけていた。
     日々成長していく身体に心が追いつかず、男の子に混じって男の子みたいに振る舞うけれど、けして仲間にはなれない私。だからといってませた女の子みたいに好きな男子や化粧や服の話も出来なくて居場所のない私に、岡田はみんなと同じように微笑んで、挨拶をしてくれる。
     だから私は彼と言葉を交わすほんの数秒、優しい気持ちになれた。

     小学校六年生の秋、卒業アルバムのために写真を撮影した。アルバムを開いてすぐ出てくる、バストアップの下に名前が書かれる、あの写真。
     しかし私は風邪を引いて欠席してしまった。翌日担任に、撮影出来なかった子は学年ごとに自分の足で写真屋へ行ってくるようにと言われた。堂々と授業をサボれるので、私は内心ラッキーだと思った。
     忘れもしない。十月二日の二時間目。
     学年で撮影日に欠席したのは私ともう一人だけだった。昇降口でその一人を待っていると、分厚いトレーナーに、やたら短い短パンを穿いた岡田が現れた。
    「悪い。小便してた」
     彼はドタバタと靴を履き替え、固まる私の肩を気軽にぽんと叩いた。
    「行こうぜ」
    「……うん」
     岡田は「俺のクラス音楽でさあ。合唱苦手なんだ。だからゆっくりいこうぜ」と、のんびりと歩き出した。
    「お前のクラスは? 何の授業?」
    「算数」
    「お互いラッキーだな」
    「うん」
     私はいやに緊張してしまって、俯いていた。すると岡田が突然私の顔を覗き込んだ。
    「お前ってさ、遠足でも学芸会でも、いっつもムスッとして映ってるよな」
     同じクラスでも、仲良しグループでもない同級生の写っている写真なんて普通は見ない。しかし岡田みたいに誰にでも挨拶をする子供なら、並んでいる写真は一通りみるものなのかもしれないと、私は大して驚かなかった。
    「写真なんて嫌いだよ。つまらないし、撮る意味も分からない」
     だって、カメラが写すのはいつだって理想の自分ではないから、映ることも見返すことも嫌いだった。友達とゲームセンターでシールの写真を撮るときも、いつもスタンプや加工ペンをぐりぐり押しつけて誤魔化していた。
     しかし岡田は私の苦悩など知らず、無邪気に笑った。
    「今日は笑いなよ。お前、笑った方が絶対可愛いよ」
     そんなことを言われたのは生まれて初めてだった。私は親との関係が希薄で、彼らはいつも不在だった。きっと生まれた頃は何度と言われただろうけれど、ざっと記憶をさらっても全く覚えがない。
    「……かわいいって……変だろ」
     自分みたいな人間にそんなことを言う人は、クラスにも先生にもいない。岡田はにこにこと続ける。
    「俺、母ちゃんに可愛い笑顔で撮ってきてって言われてるんだ」
    「そうなんだ」
    「ああいうのってみんなキリッとするじゃん。だから今日は一緒に笑顔で写ろうぜ。すげー目立つよ、きっと」
    「別に目立ちたくないよ」
    「いーじゃん、なあ」
     岡田は気安く私の肩を抱き、ぐいぐいとひっぱる。私は嬉しくて、嬉しくて、いつも笑わないように固めていた顔がぐずぐずと崩れていくのを感じた。
     写真屋はどんなにゆっくり歩いても十分程度の道のりだった。
     私と岡田は青い布の張られた部屋に通され、順番に写真を撮った。
     岡田は「なんか笑わせてよ」と無茶ぶりをして先に椅子へ座った。そんなことを言われてもどうしたらいいか分からず、私は指で口元をイーッと引っ張ってみた。
    「アハハッ、なにそれ!」
     岡田は高らかに笑って、カメラのフラッシュが光った。
     私の番になったとき、岡田は大きなカメラの背後で、まるでマラソンのアンカーへ掛けるように大声を出した。
    「大丈夫! 可愛いよ! もっと笑って!」
     岡田の励ましで私は笑った。岡田が可愛いと言ってくれるなら、友達や家族にいくら揶揄われてもいいやと思った。
     その後、二人でまたダラダラと学校へ帰って、またいつもの日常に戻った。
     私は私のグループで、岡田は岡田のグループで、一緒に遊ぶことも、特段会話することもなく小学校を卒業し、中学へ進学して、高校の進路で別れて、それっきり。
     私の青春はけして優しいものではなく、社会人になっても悩みは尽きなかった。自分らしくあることと、社会で無害な人間として生きていくことは必ずしも一致しない。心のままに道を選ぶことがとても恐ろしい場面はいくつもあった。
     そんなときは必ず、岡田の笑顔が思い出された。
     彼は二人きりのきまずさを吹き飛ばそうと、明るくふざけていただけだ。本当に可愛いと思ったわけではないと思う。心優しく、けして人を貶めない、彼らしい冗談。
     だけどあの日の会話に、私は何度も救われたのだ。
     招待状の「出席」に○を付け、作法に則って返信をした。



     披露宴を終え、歓談の時間が始まった。岡田は早々に友人一同に囲まれ、順番に祝福を受け取っていた。
     地元で知人たちの協力を得て開いた気安い披露宴だ。誘った人数も多い。地元なだけあって十年ぶりの友人も少なくない。子供の頃から変わらない雰囲気のやつもいれば、すっかり変わってしまったやつもいるが、岡田は声を聞けばすぐ分かる友達を呼んだつもりだった。
     その中に、どうしても思い出せない女性が一人いた。しかも男連中に交じって座っていて、席次を間違えたのかとずいぶん焦ってしまった。なんのことはない、見た目が少々変わっただけで彼女も忘れられない友人の一人だった。
     おめでとう、ありがとう、おしあわせに。
     お決まりの文句を言って、彼女は二次会を辞退して帰った。大きな広告代理店に勤めていて忙しく、今夜もこれからデパートのショーウィンドウを飾る仕事へ向かうそうだ。
     深緑のドレスに、長い黒髪をくるんと巻き上げた後ろ姿が会場の扉を潜って消えると、周りは騒然となった。
    「びっくりしたなあ。七小の番長がまさか女になってるなんて」
    「いやー、俺の会社にもいるけどさ。あれは驚く。元は男だなんて全然分からん」
    「俺いけるかも……電話番号聞いてこようかな」
    「馬鹿野郎。やめろ」
     口々にざわめく男達を野間が制した。しかし酔っ払って空気の読めない三島が岡田に詰め寄った。
    「岡田、あいつがそうだって知ってたの?」
    「いや……知らなかったけど」
     岡田はアルバムに映る笑顔を思い出した。
     彼……彼女はいつもキッと誰かを睨み付けるようなまなざしをしていて、周りに人を寄せ付けない雰囲気があった。だけど二人で授業をサボって写真を撮りに行った時だけは打ち解けられた気がしていた。来てくれないかもしれないと半ば諦めて招待状を出したのだが……あの楽しい思い出は自分一人の勘違いではなかったのだ。
     岡田は軽くなった胸をすっと張り直した。
    「でも、昔から可愛かったよ」
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    ゆき📚

    DONE【sngk】【ジェリーフィッシュが解ける頃】Ⅳ
    続きました。現パロです。
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    相変わらず諸々雑な感じですが
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    【ジェリーフィッシュが解ける頃】Ⅳ 自分の頬に触れたまま静かに泣くその人をただ見守る事しかできなかった。
     「すまない」
     時折落ちる雫に気がつかなければ泣いているのかも分からない程に静かに泣くその人は今どんな顔でその雫を零しているのだろう。
     なんと声をかけたらいいのかそもそも声をかけてもいいのか
     こんな時、きっと名前を呼ぶだけでも何か、
     何か目の前のこの人の涙を違うものにしてあげれたんじゃないのかと
     そう思うのは傲慢なのだろうか
     
     *****
     
     「エレン」
     講義の終わりを告げるチャイムの音が鳴り、静かだった教室内が波の様にざわつき生徒たちが散り散りに教室から出て行く中まったく動く様子も見せずぼんやりとした表情のまま固まっているエレンに隣に座って同じ講義を受けていたアルミンは心配の眼差しを彼に向けながら恐る恐る肩をポンとたたいてもう一度名前を呼んだ。
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