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    Tofu_funya2

    @Tofu_funya2

    己の欲望を吐き出すだけです。

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    Tofu_funya2

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    初期🌲🌸の小さな一歩。
    熔融という作品と蘭樹さんのところの蠱毒を読んでないとちょっと分からないかもしれない。

    #すぎさく
    tooLateBlooming
    #三連の地獄

    人でなし、はじめの一歩を。太陽が雲に隠され薄暗い。頬を撫でる風は少しだけ冷たく、身体の熱が奪われるような錯覚さえする。
     今日も今日とて遠くでちりちりと鳴る風鈴が酷く耳障りだ。
     さぁ、今日は誰と夜を過ごそうか。
     桜の色の違う両の目がきょろ、と道行く人達を目で追っていると一際目立つ大柄な男……背中を丸くして、長い髪をゆらゆらと揺らしながら歩く杉下京太郎が目に入った。
     桜は(やった、イイヤツ見つけた)とにんまりと目を細めのそのそと歩くソイツに声を掛ける。
    「よっ、杉下。今日ヒマ?良かったらオレで遊ば……な…………どうしたの」
     ぎょっとした。
     いつもだったら声を掛けた時点でオレを殺す勢いであの鋭い眼光をむけてくるのに。
     目は伏せられて鋭さはまるで感じられない。いつもの猫背だって更に丸められて項垂れている。酷くオレを罵る唇はふるふると震え、浅く呼吸を繰り返しては空気の抜ける音だけが漏れていた。
    「……………………ぁ」
    「ね、杉下、どうした?何があった?」
     動揺した。あの狂犬のような男がここまで憔悴しきっているのを初めて見たから。
    「さ、くら?」
    「……おう、オレだよ。なぁ、大丈夫?どっか怪我した?なんでそんなんなって」
    「背中、いたい」
    「背中?ちょっと見るぞ、こっち来い」
     人には見られたくないだろうと杉下の手を引き路地裏に向かった。
     酒瓶が入れられていた箱を乱雑に置き、そこに杉下を座らせた。ぐったりと項垂れ大人しいコイツを見ていると調子が狂う。
     杉下が羽織っていた学ランを出来るだけ優しく脱がした。
     またしても目を見開いた。
     シャツ一面、血がべっとりと染み付いていた。未だに出血しているのか、じわじわと鮮やかな赤が広がり続けている。
     ちょっとごめんな、と杉下のシャツをぐいっと上に引っ張る。背中には、無数の切り傷……にしては傷がぐちゃぐちゃで、何かで叩かれて裂けたような傷が広がっていた。まるで、鞭か何かで酷く折檻された後のようなソレ。
    「…………なぁ、これ誰にやられ」
    「ねぇ、桜」
     桜の声が杉下の言葉に遮られる。
    「………………なに?」
    「桜、オレに触られて痛かった?苦しかった?」
    「なに、言って」
    「答えろよ、痛かった?」
    「そりゃ、痛かった、けど」
     そっか、と杉下は下を向いてしまった。
     何なんだ、何がしてぇんだコイツは。
     桜は訝しげな顔を隠しもせず杉下を見る。数分程沈黙が続いた。
     もういい、この怪我だってどっかでヘマしてやられたんだろ。帰ろう。
     そう思いその場を立ち去ろうと右足を後ろに引くと手首を掴まれた。
     ぎり、と音がしそうな程の力で掴まれ思わず「いっ!」と声が出てしまった。
     すると杉下は青ざめた顔で手を離す。
    「ちが、ごめ、ちがう」
    「ア?なに、何なのお前?別に謝んないでいいよ、いつものことじゃん」
    「違う、ちが、オレ、ほんとは」
    「ほんとは……………………なに」
     じとり、と杉下を見据える。
     その先を言ってみろ、この場でお前の息の根を止めてやる。そんな気持ちを込めて。
    「………………なんでもねぇ」
    「あ、そ」
     ふいっと視線を逸らす。その間も杉下は手を桜の方に伸ばしては引っ込め、空中をうろうろとさせていた。
    「……触りてぇの?触れば?」
    「………………う、ん」
     そろり、と杉下の手が桜の首へ伸ばされる。
     いつもなら絞め殺さんとばかりに力を込めるその手が、するりと頸動脈付近を撫で、鎖骨へ下ろされた。
     まるで子猫を撫でるかのような力加減。
     桜にはそれが酷く不愉快だった。
    「…………誰に習ったの」
    「あ?」
    「誰に、その牙抜かれたんだって聞いてんだ」
     杉下の胸ぐらを掴み問い掛ける。
     引っ張られた勢いで背中の傷にシャツが擦れたのか、杉下の顔がぐにゃりと歪んだ。
    「お前に、関係ない、だろ」
    「そりゃねぇだろ。お前はオレの世界そのものなんだぞ?オレの世界を勝手に崩した野郎がいるなら許せるわけないじゃん。ね、教えて。誰?」
     ぐぐぐっと胸ぐらを掴む手に更に力が入る。
     そんな桜の手に杉下は自分の手を重ね、数度撫でた。
    「桜、待て、な?」
    「待たない、あとその触り方やめろ。不愉快だ」
    「なんで?」
    「なんでって、なん、オレは、」
     少しだけ桜の瞳が揺れた。
    「…………何でオレが優しく触るの嫌がんの。教えて」
    「おいてめぇオレの質問に答えてねぇだろうが。何てめぇが質問する側に」
    「教えて」
     スッと目を見据えられる。あの鋭さではないものの、その瞳から目を逸らせなかった。
    「オレ……は、」
    「うん」
    「だって、そうだろ。身体売ってるし」
    「うん」
    「……優しく触られる権利?がないっつーか、その……」
    「うん」
    「だって、お前に優しくされたら、つら、…………辛く、なる」
     言葉にしてようやく分かった。
     苦しいのだ、辛いのだ……本当は。
     じわりと視界が歪む。目から零れ落ちそうなそれを必死に堪えた。
     ぎり、と唇を噛み締める桜。杉下はその唇に指先だけで触れ撫でた。
    「なぁ桜。オレね、知らなかったの」
    「?なにが」
    「強く触ったら痛いのも、壊さない触り方があんのも、知らなかった。全部、知らなかった」
    「…………だから、なに」
    「今までオレがお前にやってきたこと、今だって謝る気も無い。だってオレだって知らなかったんだもん、教えてくれれば良かったじゃんって逆に苛立ちすら覚える」
    「はあ」
    「でもさ、でも、折角覚えたんだからさ、少しくらい実践したいじゃんね」
     そう言って杉下はふにゃりと笑った。まるで無邪気な子供のように。
    「……それをオレが許すと思ってんの?」
    「うん、桜は嫌がるだろうな。でもオレがやりてぇの。いいだろ?」
    「勝手すぎねぇ?お前」
    「それは分かってることだろ」
    「そうだけどさ」
    「な、キスしていい?」
     くっと顎を上げられる。
     あぁもう、好きにしろ。と桜は目を閉じた。
     ふに、と柔らかい感触とじんわりと温かい体温が拡がった。次第にぬるりと舌が入り込んで、息すらも飲み干さんとばかりに口内を貪られる。
     噛みちぎられなかった、痛みなんてなかった。それでも何だ。何なんだ、この充足感は。
    「………ん、ぁ」
    「ん、桜、気持ちい?」
    「………………やめろや」
    「はいはい、気持ちいのね」
     もう一度軽く触れるだけのキスをされる。
     思えばこれがファーストキスか。客とすらしなかったキス。
     あの日オレを本当に殺すんじゃないかと、ギラギラとした牙を向けてきたコイツがこんな蕩けるようなキスをするとは。
    「…………絶対あとで詳細は話してもらうからな。誰に仕込まれたのか」
    「…………おう、いつか……な」
     そう言って杉下は懐からタバコを取り出した。カチリと火をつけ、ふぅっと吐き出される煙。その匂いに覚えがなかった。
    「それも…………その人の?」
    「あ?あー、うん。貰った」
     慣れない匂いに少しだけ苛立ちを感じ、舌打ちをした。
    「それだけは、やめろ」
     杉下の口からタバコを奪い取り、ぐしゃりと踏みつけた。
    「なに?嫉妬?」
    「うるせぇな、そんな色ボケたもんじゃねぇ。そもそもオレら付き合ってもねぇだろうが」
    「はは、そうだな。付き合ってないね」
    「おう、そんなんじゃない」
     
     お互いまだ言えない。
     
     自覚するのが遅かった。そもそも自覚してるのかと言われると曖昧なのだ、二人共。
     恋心など知る前に大人たちに踏み躙られた子供たちの小さな小さな一歩が今日、踏み出された。
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